恋する磁石

恋する磁石

作者 海琳 薫(みたまかおる)https://kakuyomu.jp/works/16816452218390493516


 幼馴染の松宮美咲に告白しようとラブレターで屋上で呼び出すもまちがえて鈴本紗月に渡り、鈴本と付き合うこととなる物語。



 くっついたりはなれたりするのかしらん。それとも磁石を好きになってしまった話かもしれない。なにはともあれ読んでみなければわからない。全八話で構成されている。


 疑問符感嘆符のあとはひとマスあける云々は目をつむる。


 主人公、成谷智人の一人称「俺」で書かれた文体。途中、鈴本紗月の一人称「私」で書かれた文体。自分語りで実況中継するような感じ。状況描写より会話で説明するところがある。とはいえ冒頭の「告白」は丁寧に描写されている。

 

 前半。主人公の成谷智人は日本選抜に選ばれるほどの期待のストライカーだったが怪我をしてやめ、十数年片思いをしている幼馴染の松宮実咲を追いかけるために猛勉強して私立難関高校の入学試験に合格した。ついに告白をと思ったが勇気が出ず「ずっと好きでした。屋上で待ってます 成谷智人」と手紙を書く。だが、屋上に現れたのは、「学年一のサバサバ系女子こと、鈴本紗月」だった。素直に間違えたといえばいいものを、好きですと言ってしまい付き合うこととなるのだが、性格が合わない。


 主人公はラブレターを出すのだけれど、どこに出したのだろう。

 靴箱? 机? ロッカー?

 その辺りが明確に書かれていないのでよくわからなかった。とにかく間違えて、話したこともない相手に渡ってしまったことが重要だったのだろう。


 彼はなぜ、とっさに「好きです」と思いも寄らない言葉を口にしたのだろうか。確かに手紙には相手のことが好きだと明記している。そもそも、手紙に相手の名前を書いておけば、たとえ相手を間違えたとしても勘違いとして、とらえてくれただろうに。この辺りのうっかり凡ミスしてしまうところが、主人公の性格を表しているのだろう。


 しかも幼馴染の彼女にも知られ、「智人とは正反対。でも、今は性格合わないなー、って思ってても大丈夫だよ。案外違う者同士って惹かれ合うから」とアドバイスをされてしまう。校内では付き合っていることが知れ渡り、羨ましがられもするのだった。


 幼馴染の彼女も、応援するようなアドバイスを送らなければよかったのにと思うのだけれども、周囲の様々な言葉があったから、主人公はいまさら間違いでしたといえない状況に追い込まれていったのだ。


 彼の意外な特技として、文才があるところが魅力的だ。

 文芸部か演劇部に入っているのかもしれない。『角川短編小説集 五分で笑える、泣ける読書』に作品が掲載されたという。素晴らしい。おそらく、「五分で本の世界のとりこになれる短編集『五分で読書』シリーズのカドカワ読書タイムを想像させるような書籍なのだろう。


 後半。主人公と鈴本はイオンデートすることになる。いつもとちがい清楚な姿を前に可愛いとおもった。買い物に付き合い、ゲームセンターのパンチングマシンでどちらが昼食代を払うか勝負する。成谷智人が勝つが、「彼女に食費払わせるとか屈辱でしかない」と彼が支払う。変える前に一緒にプリクラを撮り、初デートが終わる。


 二人共、パンチングマシンの点数がすごい。

 日本のゲームセンターに置いてあるパンチングマシーンの多くが、自動起き上がり型だ。天井吊るし型はなかなか見る機会がない。自動起き上がり型の方がコストが安く、見た目が一般人ウケしやすいためだという。

 一般人のパンチ力は体重の二~三倍といわれている。体重が重ければ重いほどパンチ力は強くなるらしい。

 とはいえ、ゲームセンターのパンチングマシーンは、的が早く倒れる速度を計測している。なので、弧を描くようなピッチングの要領で上から下に的を押し倒し体重をのせるパンチが高い数値を出す打ち方といわれる。だが、気をつけなければ怪我をする恐れがある。また、安全性を考慮して異常値はエラーを出す仕組みになっている機械もあるようだ。


 夏祭りの花火を一緒に見る約束をしていた待っていると、松宮実咲に出会う。「もし、私が好きって言ったら……好きになってくれる?」彼女の問いに即答できず、「ごめん。やっぱり、俺は鈴本が好きなんだ」と答える。

 幼馴染と別れた後、スマホに「助けて 駐輪場」と鈴本からメッセージが届く。ヤンキーに襲われているかと心配して急いでいくと、のんきに花火を楽しんでいた。「成谷と花火見れなくなるのは嫌だから早く来いカス」という意味だったと知り、無駄に心配した気持ちを返せと暴言を吐く。花火がよく見える場所へ移動し、手違いでラブレターが渡ったことを正直に話す。彼女もあのときは「半分ノリ」で好きだと答えたという。でもいまは、互いが互いを好きになっていた。


 読後、タイトルを見ながら「あ、成谷。お前どうせ、『俺はイニシャルN・Nだし、紗月はS・Sだからアレみたいだなー』とかだっせぇポエムでも考えてるんでしょ?」というセリフを考える。

 幼馴染、松宮美咲のイニシャルはM・Mである。

 SでもNでもなかったから、くっつくこともないし反発もないのかと納得した。

 それはそれで、悲しいのだけれども。

 初恋は実らないことを本作は暗示しているのかもしれない。

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る