永遠(ぜったい)に勝たせてくれない幼馴染な君。

永遠(ぜったい)に勝たせてくれない幼馴染な君。

作者 さーど

https://kakuyomu.jp/works/16816700427242473477


 幼い頃、「絶対に立派になるからずっと一緒にいよう」と幼馴染の英吉に告げられた言葉を胸に努力し続ける高校一年の北條政美は、容姿端麗文武両道成績トップ、生徒会会計もしている。英吉の成績は常に二位。今日も彼女の傍にずっといるために勉強に励む物語。



 勝負をしているのかしらん。勝たせてくれない、とは相手に手を抜いてほしいのだろうか。いくら実力をつけても、その数倍は強くなっていて、いつも勝てない。アキレスの亀状態になっている関係かもしれない。はたしてどうなのかは、読んでみなければわからない。

 サブタイトルに「いつまでも俺は敗北する。」とある。とにかく負け続けるらしい。


 疑問符感嘆符のあとひとマスあけるは目をつむる。


 赤坂アカ原作の漫画、『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』をどこか彷彿とさせるような作品。

 三人称の神視点で書かれた文体。登場人物である英吉とメタ的な会話をしているところに、面白さの華を添えている。また、後半ラスト部分は北條政美の一人称「私」で書かれた文体。描写もよく書けている。

 

 冒頭、「太陽が西にある家に飲み込まれ始め、青い帳は東の方から徐々に茜色へと変わっていく」とあり、作者は普段から空をよく見ているのが伺える。

 日が西に沈むとき、東の空にも夕焼けが見えているのだ。

 大気を横切る距離が長くなればなるほど、青系統の光は散乱されていき、最後には赤系統の光が残って夕焼けとなる。つまり、観測者の頭上を通過した太陽の光は、日が沈む反対側の東の空もほのかなピンク色に染めていく。その色は薄いものの、太陽が沈む点の正反対付近が最も赤くなり、赤と青が混ざったような色が周囲に向けてぼんやりと薄く横に広がる。この帯状の東の夕焼けを、「ビーナスの帯」または「ビーナスベルト」とも呼ばれる。

 ビーナスの帯の下には、暗い部分が広がっている。この暗い部分は地球の影であり、地平線の下に太陽が沈むと光は東の地平線にまでは届かなくなり、地球の影があらわれる。すなわち夜の訪れである。

 季節を問わず、晴れている日に見通しの良い地域なら条件さえあえば見ることができる。太平洋側地域に住んでいる人は、空が乾燥して水蒸気が少なく、雲が出にくい日の冬に見ることもできる。

 少なくとも英吉は、もうじき夜になる時間まで図書室で勉強していたのだ。

 ちなみに、ナレーションのような神視点の地の文に「いやさっきから言いたい放題だな」(……もうツッコまないぞ)と英吉はつぶやいているので、聞こえているのかしらん。彼には聞こえているという前提で読み進めると、最後だけ政美の一人称でなければならいのかがわかる。

 ナレーションの声が聞こえるのなら、彼に彼女の気持ちが筒抜けになってしまうからだ。


 前半、図書室で勉強を終えた英吉に声をかけてきた幼馴染の政美と帰宅する。常に学年トップの彼女に対し、英吉は二位。「一度も政美に勝てた記憶は無い」からこそ努力する。そんな彼に対し彼女は「私は才能の塊だからね!何もしなくても、勉強だって運動だって出来ちゃうんだから」というが、彼女は自分よりも努力していることを英吉は知っていた。

 後半、昔から秀でていた政美に勝てるものはないかと悩んだ結果、英吉は勉強を励むことにした。だが、どうしても彼女の上には行けない。高校入学前の春休みの早朝、彼女は軽く走ったあと家の前を掃除しながらご近所の老婦人と笑顔で話す姿があった。彼女は才能の塊であるが、「努力」の才能のかたまりであったのだ。

 期末考査の結果、またしても彼女は一位で英吉は二位。結果を前にさらなる努力を「絶対に政美の上に到達してみせる」と決意する。なぜなら、自分を見つめ直したとき、いままで「自分でも知らなかった気持ちを見つけ」昔かわした彼女との約束「絶対に立派な大人になるから、ずっと一緒にいよう! 絶対だ!」を思い出したのだ。彼は彼女のことが好きだと気づき、その思いをバネに勉強に励むのだった。

 政美の「父親は総合病院の院長、母親は同じく看護師を勤めていた」ため、「勉強や運動は常に上を目指し、人とは多く触れ合い信頼されるような人であれ。将来のためには最低でもそれが必要だと、幼少期の頃からそう教えられていた」という。

 頑張っても褒められたことがなかった。そんな彼女の支えになっているのは十年以上も前に幼馴染の英吉から告げられた「絶対に立派な大人になるから、ずっと一緒にいよう! 絶対だ!」だった。

 彼は立派になり、自分よりも上を目指して日々努力していた。約束を守るために頑張っているとは思えない。「事実、彼はとても素っ気ない」親の期待からは逃れられない。

 彼女は彼の事が好きなのだ。けれども、「明かしたとしたら気まずくなるし、今度こそ関係が崩れてしまうのもかなり有り得る」から、打ち明けてうまくいかなかったら「本当に耐えられそうにない」と不安を抱え、「いつまで続くのだろうか……」と悩みながら努力を重ねていくのだった。


 読後、このままだといずれ、政美の中で緊張の糸が切れるときが訪れる気がする。切れた後、気分が落ち込み鬱病になってしまいかねない。

 どうして頑張って努力しているのか、その意味をもう一度見つめることが必要だ。その目標を達成するためにこれまでどんな努力をしてきたのか。身についたことはなにか。これまでの経験こそ財産だと思い出し、その経験を周りの人は必要としていることを忘れてはならない。

 二人は一度、正直に互いの気持ちを話すことができたなら、次に進める気がする。そのために今まで培ってきた経験や努力を使えばいい。それに気づいて、あとは勇気があれば大丈夫。幸多くあらんことを願う。

 

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