付き合いたくない後輩と
付き合いたくない後輩と
作者 神凪柑奈
https://kakuyomu.jp/works/16816700426864341080
サッカー部の先輩にすごい賢くて勉強を見てくれる雪翔の噂を聞いて絡んでいた後輩の宮風凜音は、彼に告白されるも動機が不純で近づいたことを申し訳なく思い断るも、彼のことが好きでいつも側にいた。雪翔は懐かれている凜音に振られたが未練があった。そんな二人が互いの気持ちを勇気を持って話すことで結ばれる物語。
上の句のようなタイトルが付いている。
付き合いたくない後輩と、どうしたのだろう。それは「読んでのお楽しみ」である。
サブタイトルが二つ。一つは歪で理想な二人の距離とある。
ゆがんで形が崩れ、行いや心が正しくないのが理想。そんな二人の距離の話らしい。歪んだ者同士だから性に合っているということかもしれない。あるいは犬猿の仲なのか。果たして。
もう一つは、本当の言葉。こちらは本音が語られているのかもしれない。
二人だけの舞台劇ができそう。
それぞれの人物の想いを知りながら結ばれない状況にもどかしさを感じることで共感する作品。
主人公、雪翔、一人称「俺」で書かれた文体。
おそらく彼は二年で、後輩は一年と推測。
三年生だったら受験で忙しいだろう。
登場人物の主人公と、裏の主人公でもある後輩の宮風凜音以外ほとんど出てこない。出てきたとしてもくわしい状況説明もない。物語に必要のないものは排除しているのだ。
二人の関係性にだけスポットをあてている。
こだわって書いているから、書きたいものが明確に伝わる。
凜音は噂で勉強を見てくれる先輩がいるという話を聞き、興味本位で見物に行ったのはそんな雪翔をウザ絡みするため。鬱陶しそうにしていた雪翔だったが、きちんと相手をして勉強を教えてくれる日々の中で、好きになっていく。でも、先輩は見世物にされるのは不快だと知ってしまう。先輩から告白されるも、自分は相応しくないと思い断る。それでも先輩の側にいるのは、先輩の気持ちを知りながら申し訳ない気持ちがあったし、なにより彼女は先輩のことが好きなのである。
前半、主人公は後輩の宮風凜音に勉強を教え、彼女の成績が上がる反面、主人公の成績が下がっている。
「凜音は可愛らしくて、人懐っこいところがある。そのくせ周りのことをとてもよく見ていて、困っているところには助けようとしてしまう。だから、男子からの人気も高かったのだ。それなのになぜかずっと俺の近くにいる」彼女の容姿の描写はなく、主人公がみた彼女の姿が書かれている。
彼女に彼氏がいないか、側に来るようになって半年くらいに尋ね、いないと知ったから「俺と付き合ってくれないか」と聞いたという。
つまり、彼女とは半年以上のこういう付き合いをしてきているのだ。
そして、主人公は彼女に「嫌です」と断られている。
彼女は主人公を励ましたくて、近くにいるという。
つまり、主人公は彼女に振られたのだ。半年も異性に付きまとわれて、仲良くなって、好きになって告白したら「嫌です」といわれれば、失恋のショックで成績が下がるのもうなずける。
後輩も「……わたしのせい、だよね」と気づいているし、気にしている。でも主人公はそれには触れない。耳に入ってこなかったのかもしれない。
ということは、彼女に振られたのは、つい最近の出来事なのだろう。
主人公が後輩を好きになったのは、バレンタインのチョコレートがきっかけだった。チョコ嫌いな主人公に彼女は「ミートパイとチーズケーキを準備して」いたのだ。「多分、そのときだろう。この不器用な優しい後輩のことが好きになったのは」
そうおもったから、主人公は告白したのだろう。
つまり、告白したのは二月と推測する。
ということは、九月から後輩はつきまとうようになったのだろう。
本作は、二月の終わりの出来事かもしれない。
彼女の声が聞こえているなら、一緒にスイーツを食べに行った時、「わたしとセンパイが噂されるのとか気にしてますー? だいじょぶですよ、もうされてますから」と後輩に言われて、「できることならそんな噂は今すぐにでも払拭したいところ」と思うはずがない。
振られたのに、二人が付き合っていると噂されるのは、主人公としてはつらいだろうから「今すぐにでも払拭したい」のだ。
後輩は自分のことを「嫌いでなければ好きというわけではない」「遊び相手、みたいなものだろうか」と考えている。
彼女の「私が傍にいて、邪魔だとは思わないんですか?」という問いに、そうだと言ったらと答えれば「もう雪翔センパイには近づきません」と言われてしまう。
もしそうなったら「なんとも寂しい」と思いつつ、ふっきれるかもしれないので「少しだけ願っている」のだ。
主人公の中では、「俺と付き合ってくれないか」みたいなあやふやな言葉ではなく、きちんと「好きだ」と伝えておけば、今と違った結果になったかもしれないと、自分の不甲斐なさから嫌になっているのだ。
後半、主人公の家で後輩と勉強する。「何度も凜音はうちに来ている。だから両親は凜音のことを知っているし、今は凜音に良い印象しかないらしい」付き合ってもいないし、振られているのに、である。
主人公は勉強が嫌いで、「そんな嫌いなものが、今は俺と凜音を繋いでくれる唯一のもの」だからこそ、「もしも成績が落ち続けたら、凜音は俺と一緒にいてくれるのだろうか」と不安になる。それだけ、主人公が後輩のことが好きで未練があるのだ。
そんな主人公に切り出したのが後輩の「謝るべきなのは、私の方です。センパイ」のこの言葉。そして「不安とも後悔とも、あるいはそのまた別のものともとれる感情」をみせている。
先に自分の殻を破ったのは後輩だった。
殻を破るには勇気がいる。
主人公の告白は気づいていて、「そのうえで私は、センパイとは付き合いませんでした」だけど「わたしは、センパイのこと、すきで、でも、わたしはだめだから、センパイにきらわれようとして」きたという。
そもそも主人公に興味を持ったのは「サッカー部の先輩にすごい賢くて勉強見てくれるやつがいるって聞いて、どんな人か気になっただけ」であり、主人公は「真剣に勉強を教わる気があるなら話は別だが、そうやって見世物にされるのは不愉快」に思ってきたのだ。
そのことを後輩はあとから聞いて、「私じゃ駄目だ」とおもったから、先輩の告白を断ったという。
後輩が全部話してくれたことをきっかけに、主人公も自分の殻を破る。
「宮風凜音。お前が好きだ」「なんだっていいんだ。最初とか出会いとか、そういうの」「俺と、付き合ってほしい」
こうして互いに気持ちを言い合い、距離を縮め、「これからもずっと、センパイの傍にいます。センパイを頼ります。勉強、教えてもらいます。だからセンパイも私を使ってください。頼ってください」二人は付き合うことが出来たのだ。
おかげで主人公の成績も上がり、「センパイ。なにがあっても、今度は私の意思でセンパイの傍にいますから」
「そうしてくれ。俺ももう、嘘は吐かない」
主人公がそういったあと、「半歩後ろだった凜音が隣を歩く。歩幅は少しだけ小さい。だから、それに合わせてゆっくり歩く」隣に並んで歩いていく。素敵なラストである。
ハッピーエンドで終わる作品は読後がいい。
タイトルを見直してみる。振られたのに、「付き合いたくない後輩と」ずっと一緒にいる先輩の話だった。
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