夢から覚める瞬間は、いつも

夢から覚める瞬間は、いつも

作者 朝田 さやか

https://kakuyomu.jp/works/1177354054917746126



 離婚で兄と離れ離れとなり父の虐待に苦しんできた妹は夢で会えるのが唯一の救いだったが、現実でついにめぐり逢い、救われる物語。



 いろいろな歌の歌詞が思い浮かんでくるタイトルがついている。目覚めた瞬間、いつもなにかがあるのだろう。読んでみなければわからない。



 前半は不思議な恋愛ものかと思わせておいて、後半に明かされるリサの正体と主人公との関係に驚く展開がまっていて、めでたしめでたしで終わる。

 実によくできていて、考えられている。


 一話の朝食時のテレビの情報番組のシーン、「続いてのニュースです。〇〇県に住む四十二歳の男性が、同居する十七歳の娘に暴行を加えたとして、殺人未遂の容疑で逮捕されました。容疑者は……」というのは、日常シーンの中に差し込まれているのか気になってもやっとしていた。

 これは離婚した父親が娘であり主人公の妹森川梨紗に暴行して逮捕されたニュースだったのだ。


 高校二年生の主人公、金指大吾の一人称「僕」で書かれた文体。自分語りなモノローグ調。

 八話以降、森川梨紗の一人称「私」で書かれた文体もある。モノローグで彼女のことが語られている。

 兄妹といっても、二人は二卵性双生児、双子だろう。

 

 前半、主人公は幼稚園のころから十三年間、毎日夢の中で会ってきたリサと同じ姿をした森川梨紗が九月に転校してきて隣席となる。彼女は夢で会ってきたリサだった。


 気になるのは、一話は現実なのか、夢をみているのかどちらなのかということ。

 一話が現実ならば、このあと彼は交通事故に遭い、一週間昏睡状態の中、夢の中で数カ月、リサと会っていたことになる。

 おそらく、この見方が正しいと推測する。

 早朝のテレビで、妹が父親に暴行を受けたニュースが流れていた。事件が起きたのは前日か、当日かが気になる。さすがにその日の朝に起きた暴行ニュースが朝食時に放送されるとは考えにくい。早くても昼か夕方のニュースで取り上げられるはず。なので、前日に起きたと見るのが自然な気がする。

 ストーリーの整合性を考えると、同じ日に兄妹そろって同じ病院に昏睡状態で入院していたから、数カ月過ごしたという夢を見れたとするのが作りて側の意見ではないかしらん。


 つまり十三年前、兄妹が四歳くらいのときに両親が離婚してから、双子の兄妹は夢の中で会ってきたのだろう。「ずっと、リサは夢に出てくる妖精のような存在」と捉えていたため、まさか妹とは主人公もおもっていなかったのかもしれない。


 現実で彼女に会えると、夢では会えなくなった。

 この世界そのものが夢だからだろう。


 彼女の家に伺い、父とは仲は悪く兄とは仲がいい。皿が割れたとき、以上に驚く彼女と、割れた皿を踏んでも痛みを感じなかった。

 すでにほのめかされている。読者としては、なんだろう、もやもやするけれども、気になるだけ。でもこういうなんだろうが積み上がっていくから、ラストを迎えるときに驚きにつながっていく。


 リサの誕生日に一緒に遊園地を訪れ、ペアのキーホルダーを買い、「おめでとう、リサ」とネックレスのプレゼントを贈る。

 後半、はじめて夢の中で出会った公園の花畑で告白しようとした時、「その言葉の続きは聞けないかな」リサは拒絶し、「お願い、助けて。だってダイゴは私の――――でしょ?」と懇願されて、夢から覚める。

 妹は、夢で兄と会っているのを知っていたのだ。

 ひょっとすると、十三年前から妹は夢で会う相手が兄だと知っていた可能性もある。


 主人公は始業式の日に交通事故に遭い、一週間ほど意識を失っていた。リサと過ごした数カ月は彼がみた夢だったのだ。


 目が覚める瞬間、彼女が告げた言葉が引っかかっていた。

 現実の梨紗は、父親から暴力を受けていた。「隣の市に住む彼に会いに行くことができる。苦痛でしかない日々の中で、数カ月に一度訪れる救済。生きている彼を見るだけで、私も生きようと思えた」とある。

 離婚後の面会交流があったのだろう。

 妹は兄と会っていることになる。

 ということは、夢の中で会っているのは兄だと妹がわかるのはうなずけるけれども、兄は気が付かなかったのだろうか。「僕自身が作り出した空想上の人物に過ぎない」なんておもっているくらいだし、気づいていたら「リサは、僕の初恋の相手だった」とはならなかっただろう。


 彼女は父の暴力をうけて病院へ運ばれるも、「彼のいる場所へ、連れて行ってください」と願って「手首に繋がった点滴の管を外し、目を閉じ」るのだった。

 主人公は、彼女の病室を訪れ、点滴が外れていることに気づく。目覚める彼女はにとって、主人公は兄だった。

 どうやら十三年前に離婚して、兄は母親に、妹は父が引き取ったらしい。

「十三年間ずっと梨紗に会う日を夢見ていたんだ、と」語り、二人は兄妹で同じ夢を見ていたのだ。


 ということは、離婚後の面会交流はなかったのだ。

 妹はこっそり、兄を見に行っていたのだろう。

 おそらく母親から、なにか会った時の連絡先を聞いていて、父の目を盗んでこっそり兄の姿を遠くから眺めていたと邪推してみる。そう考えると、兄が夢の中であう彼女を妹と認識できなかったのもうなずける。


 父親は事件当日、隣人が発見して通報され、「虐待と殺人未遂の容疑で逮捕され」、兄妹は家族となったという。

 二人は今も夢の中で会っているらしい。

 主人公は妹「への想いを封じ込めながら、人生で一度しかない今日を強く、生きていく」で締められている。

 読後、タイトルを見なおすと、主人公はシスコンを卒業できなさそうだなぁと思った。

 

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