15回目の告白

15回目の告白

作者 白石こゆぎ

https://kakuyomu.jp/works/16816452220772071068


 小学一年のときから幼馴染の誠太に告白され続けてきた村山彩花は十五回目の告白で彼のプロポーズを受ける物語。



 同じ人におなじことを十五回も告白してきたのだろう。問題はそれが好意なのか、謝罪なのか、あるいは重大な機密なのか。しかもその告白をされたのはどんな人だったのか。読んでみてのお楽しみである。


 文章の書き方について目をつむる。

 書き終わったら一読して、おかしなところ気になった所があったら直すと誤字脱字などもなくなり、今よりも良くなると思う。



 思うより思われ、愛するより愛される方が幸せになれることを本作は語っているのだろう。



 主人公、村山彩花の一人称「私」で書かれた文体。

 本作は、大きくわけて二つの話が同時進行している。

 一つは現在、たきかわ誠太とデートをし、彼のプロポーズを受けるという本編。もう一つは、そのデート中に話している、彼との出会いから告白をくり返してきた思い出と彼女自身の恋愛遍歴。この二つで構成されている。

 一応、行を幅広く開けてわかりやすくしようとしている。そういう書き方をしていると分かった上で読めば、混乱しにくくなる。

 やや自分語りな書き方をしているのは、本作は主人公である彼女が、幼馴染の彼のことを思い出しながらあれやこれやを語り、それを隣で聞いている現在の彼がツッコミを入れるように話に入ってくる形式をとっているからだ。

 すでに起きた過去のことなので地の文が説明的にならざるを得ず、文末が「~た」と並びやすく、会話文も多い。

 彼の容姿などの描写は少ないが、どういう性格や行動をするのかは描かれている。


 幼馴染の誠太は小学校から告白している。

「誠太は私を呼んで告白をしてきた」「その時の私は『むり! ともだちじゃダメ?』と言ったが、すると苦笑いをしながら物静かに去っていったのであった」

 初告白して初失恋である。でも彼はめげず、毎年告白していくことになる。


 たしかに彼もすごいのだけれども、もっとすごいのは実は主人公なのだ。

「彼との出会いは小学一年生のときだった。初めて彼に言われた言葉を覚えてる。『ぼくのなまえは、たきかわせいた!きみのなまえは〜?』慣れない環境に困ってる子供たちが多い中で、彼は私に堂々と胸を張って名前を言ってきた。私も名前を言うと彼が手を差し出して握手したことは今でも覚えてる」

 告白以前に、彼との出会いをしっかり覚えているのだ。

 きっと彼の「堂々と胸を張って名前を言ってきた」この態度がよかったから印象に残ったし、彼女も忘れていない。


 礼儀正しさは踊りと同じで、学んで身につけるものだし、何気なく行うものであり、習慣でもあり、一種の自然体である。たしなみのある人は、誰も傷つけたり気分を害したりしない。幸せになるには重要なものだ。

 小学一年生のときに、彼は身につけている。これは彼の魅力であり、友として持つには充分であり、仲間とするなら大いに心強い。

 人に不安を与えるのは礼儀正しさとは言わないし、無作法とは脅しのようなものである。


 彼女は語っている。「誠太自身は嫌いじゃなかった。彼は人にとても優しくて、人を助けることもあった。人間性は非の打ち所がなかった」

 人として、彼は尊敬に値する男だったのだ。

 

 主人公は高校二年のとき他の男、輝也と付き合っている。

「学年で一位の成績を取っていて容姿が整っている非の打ち所のなさそうな男の子だった」

 周りにも相談しているが、他人の意見は意見であり、最後に決めるのは自分自身。なにより、人に相談するときは八割は答えを決めているときで、残り二割の後押しをして欲しいからだ。

「振ってばっかで何か人生を損してるように感じ」ていたから、「いい人生経験になるから付き合った方が良い」と主人公は思っていて、そのとおりの答えをもらったから、付き合うことにしたのである。

 なにより、誠太から告白されては断り続けてきたのが、かえって彼女の感覚を鈍らせてしまっていたのかもしれない。

 あるいは主人公の好みは、見た目や他人の評価で彼氏を決めてしまうものだったのかもしれない。


 主人公が選んだのは、頭が良くて見た目もよさそうな相手だった。つまり、誠太は成績がいいわけでもイケメンでもないといいうことだ。小さい頃は運動神経がいい子が格好良く見えても、おおきくなれば、よほど秀でてないと魅力にはならない。

 

 初めは優しく接していたが「君を抱きたいんだ」と言われ断り、恐怖を覚えて距離をとるも、教室で襲われそうになる。

「輝也は退学になったが、私は輝也のせいで男という存在が怖くなっ」てしまう。

 今回のことで主人公は、見た目や他人の評価は参考にならない、と学んだかもしれない。


「安心して話せる男子がいた。それは誠太だ。誠太は友達としては面倒くさいことが多々あるけど、関係は長く続いてるし、信頼はしていた」彼と鎌倉で楽しい時間を過ごし、彼から告白されるも、「無理だけど、あなたの魅力は増えたかも」と断っている。

 このころの主人公としては、これが素直な気持ちだろう。

 

 高校三年のときに告白してきたとき、「無理」「あなたに恋愛感情を湧くほどの魅力が伝わってこないから」とある。

 どうしたらいいのだろう、と悩む彼の気持ちがわかる。

「私には上手く伝わらないだけ。人って不思議なことにお願いごとを一回頼んでやってくれる人も居るし、何回もお願いしても断る人だっている。つまりそれと一緒。私は何回お願いしても断る方。でもあなたが頑張れば変わるかもしれない」「あなたには魅力がしっかりとあるわ。何もないわけないじゃない」

 彼の良さは、主人公はよくわかっていると思われる。だけれども、主人公は恋愛に対して興味がないか、関心が薄いのではないかしらん。


 大学時代、豊橋明里という友達が「彩花と時々話してる男の子って誰なの? もしかして彼氏とか」と聞いてきた時、「ただの腐れ縁みたいな人」と答え、イケメンだと思う彼女に「私には何がイケメンなのかの基準が分からないから」と返している。

 主人公がいかに異性に興味がないのかがわかる。

 だから、恋とは、恋愛とはなにかを教えるために豊橋明里というキャラが出てきたのだろう。この子がいなかったら、ずっと独身だったかもしれない。誠太がいなくてもそれは同じだっただろう。

 彼がずーっと「聞き飽きた事かもしれないけどさ、まだ好きなんだよね。彩花さんと付き合いたいなって思ってる。だから僕と付き合ってください!」と言い続けてきたから付き合えたのだ。

 付き合って三年、主人公は「本当になんでもしてくれる。どんなことにも相談に乗ってくれる。彼に感謝しきれないほどのことがたくさんある」とおもっている。

 女性は「愛するより愛される方が幸せになれる」という。

 全く見向きもされなかったにもかかわらず、有名になった途端、近付いてくる人は絶対信用できない。肩書やお金がなくなった途端、裏切るからだ。


 誠太は「ポケットから小さな四角い黒い箱を取り出し」「これ開けてみて。もしかしたら嫌かもしれないけど。開けてみて」「僕と結婚してくれませんか! その良ければ……」とプロポーズする。

 本人ですら告白の回数を忘れているのに、主人公は「十五回目の告白」とおぼえているのだ。

 きっと主人公は感情よりも理性が強いのだ。だから恋愛に対して鈍感で、関心が薄く、感情についてまわりから指導しないとなかなな自分自身の気持ちにすら気づかなかったのだろう。

 誠太は誠太で、彼女が相手だったからがんばれたのだろう。あっさりと告白にOKしてくれたら、彼だってここまで頑張らなかったかもしれない。彼女のおかげで、彼も色々成長できたにちがいない。

 何事も諦めてはいけない。

 何度でも、何度でも、何度でも。

 


 一つだけ気になっているのは、豊橋明里のような恋愛話をする友達が、小学校や中学時に主人公にいてもおかしくないのに、話題にすら上がっていないこと。主人公は友達が少なかったのかしらん。

 子供の頃から友達と恋バナをしてきて、大学時の豊橋明里が大人の恋愛を語って主人公に教える流れだと気にならないけれども、主人公に恋愛を話す友達が豊橋明里だけだと唐突すぎる印象を覚えてしまう。お話のラストを迎えるために用意されたキャラみたいにしかみえないのが、もったいない気がした。

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