深淵の追憶 ─紅き瞳が映すものは─

深淵の追憶 ─紅き瞳が映すものは─

作者 戦ノ白夜


https://kakuyomu.jp/works/16816452218613671987


 魔物たちに両親を殺された少女アルファは魔王ラサンテに助けられ記憶を封印し元の世界へ戻されたが、心に残った傷は消えず、感情を失い、魔術師として拾われて奴隷扱いされてきた。そんな彼女は再びラサンテと出会い、魔界で共に過ごすこととなる。

 力を求めた魔王ラサンテの内にある魔石グレントールのせいで必要もなく殺戮に走り、彼は孤独だった。時々発作に襲われるも抑え込んでいる。魔王に復讐したい悪魔に彼女は連れ去られていたぶられるも、ラサンテが現れ救い出す。雪原の下に永眠する彼女の両親の墓の前で記憶の封印は解かれ、ラサンテは両親を救えなかったことを彼女に詫び、「お前自身と、親と、俺の為に生きろ」と告げ、二人はともに生きていく物語。




 奥底に眠る遠い昔の記憶、という意味のタイトルに副題がつけられている。紅き瞳をもつ人物になにかしら関わりのある昔の記憶のお話が書かれているのかもしれない。ちがうかもしれない。読んでみなければわからない。


 文章の書き方や疑問符感嘆符のあとひとマスあける、ダッシュは基本ふたマス等は目をつむる。


 本作は怪獣映画のようなストーリー展開。予言めいたものと不信からはじまり、登場と混乱が起き、防衛と絶望のシーンがあって反撃に転じ、後味の悪い終わり方、不安めいたものを残して幕を閉じる。よくできてるし、よく書けている。

 ところどころで読み手がツッコミのような感想をいれていきながら、異世界の物語を舞台の上で誰かに読み聞かせている感じがある。

 三人称で書かれた第三者視点の文体。魔術師の少女アルファ視点や魔王ラサンテ視点で書かれた箇所もある。

 異世界ファンタジーもの。状況描写が多いのは、独特の世界観を現すためだろう。説明的な一言も多く、ややくどさを感じる。「――」をよく使い、暗喩を多用し、地の文の表現にこだわりがある。


 ラサンテは過去を隠し、孤独な魔王の地位にいる。魔術師の少女を連れて帰りともに過ごす中で、本来の姿をみせていく。恨みを抱いている魔物に少女は連れ去られ、彼女を救うために行動し、過去を認めた行動をとって少女の記憶の封印を解く。

 結果、ラサンテは孤独ではなくなり、少女と未来を求めて旅立っていく。


 災厄の化身、それ、異形、悪魔、魔物、死神、怪物。

 すべてラサンテを示す暗喩だ。

 人間側からみたら、区別がつかないことを表しているのかもしれない。読み手側としては短い場面で多様されると、少女はなにと対峙しているのかがわかりにくい。しかも魔界の話らしいので、怪物で統一すればいいのではないかしらん。


 ラサンテとは、フランス語で「健康」を意味する。グレントールはおそらく、グレンドール。フランス語で「黄金の穀物」を意味だろう。

 健康のものが黄金の穀物を食べたことで力を手に入れる反面、殺戮に走らせるという話は、小麦に含まれるグルテンが脳に炎症を起こし、腸に小さな穴をあけ、結果鬱に走らせ体調を崩す要因になるのを想起させる。

 小麦に含まれるグルテンというタンパク質の混合物が、腸の表面に薄く付着することで消化と吸収が妨げられ、そのまま存在し続けると免疫システムがはたらき、結果腸の粘膜で炎症が起き、炎症が長引けば、粘膜細胞で構成される腸壁が傷つき、最悪小さな穴が開く。

 遺伝子配列の違いより、現代の小麦に含まれるグルテンの消化は個人差があるものの難しいとされ、半分消化されたペプチド状態のままストップする場合があり、これが脳内に入ると、麻薬のモルヒネと同じ受容体を刺激する。

 結果、慢性的な疲労感の原因となり、小麦製品を食べた後に眠気や集中力の低下、「また食べたい」という強い渇望が引き起こされ、躁鬱、気分のアップダウンにも関連している可能性があるという。


 魔術師として拾われた少女は、「料理と植物を育てることは、雑用として働かされていたときでも好きだった」とある。下働きとして拾われたのかもしれない。

「初めは何をすれば良いのかと絶えず戸惑っていたが、皮肉にも元の世界での経験が生きているのか、一度教えれば後は早かった。料理の腕もなかなかである」とある。

 少女は意外と器用だ。

 菜園以外の食材は、どこで手に入れているのかしらん。

 

 連れ去られて少女はいたぶられるのだが、なかなか酷い仕打ちを受けている。

「捩られた剣が肉を抉りとる。骨が削れる音が身体に響いた」「爪を剥がされ、指を折られる」「痛みに身を捩る度に肩の傷は広がる」「雪の冷たさまでもが彼女の身体を針のように刺した」「紅い瞳はひび割れ、凍りつく」

 これでよく彼女は生きていたものだ。しかも治るのだから、なにかしら治癒魔法的なことをしたのかしらん。麻酔と鎮痛剤は飲まされているのだけれども、すくなくともこれを飲んだ後、会話をしているので効果の高い回復薬だったのだろう。


 少女とともに生きることで、グレンドールをもつラサンテの生き方はどう変化していくのかは別の話であり、読者の想像に委ねられている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る