アンチマシーンの詩

アンチマシーンの詩

亜木都長

https://kakuyomu.jp/works/1177354054935844724


 菜種未知に恋をしたアンドロイドの告白を助けようと日渡はラブレターを書かせ、稼働限界迫る中、アンドロイドの告白を見守る物語。



 生の詩ということかしらん。

 どんな話かは「読んでみてのお楽しみ」である。




 アンドロイドと人、男の友情を描いた作品である。

 結果がどうなったのか。

 それは読者のご想像に任されている。


 主人公の男子高校生、日渡の一人称「俺」で書かれた文体。

 アンドロイドの彼と関わることで生まれる様々な出来事による葛藤を描いている。


 前半は、校舎の屋上で昼食を取りながら主人公の日渡は、隣の男子高校生型のアンドロイドが菜種未知に恋をした話を聞く。

 少子化の中、政府は子供の中にアンドロイドを混ぜてみようという実験を始め、主人公が通う高校に実験導入されていた。アンドロイドの稼働時間は最大二年。誤作動もなく一年稼働し続ければ問題はないという設計。

 稼働から一年半が過ぎた現在、受け答えが遅れだし、研究者たちも様子を見に学校へ頻繁に訪れるようになっていた。

 主人公は、稼働停止するまえに、アンドロイドの告白を手伝おうとする。

 後半、アンドロイドに手紙を書かせ、下校していく彼女に手紙を渡させようとするも倒れてしまう。

 研究所の一人が回収しようとするも説得し、二人でアンドロイドが告白する姿を見守って終わる。


 屋上で主人公は弁当を食べ、アンドロイドと話をしているところから始まっている。

 アンドロイドだと知りつつ、食べないとわかっているのに主人公は「からあげ食う?」と声をかけている。場を和ませるためのジョークだろうか。アンドロイドの彼は「それに何度も言うが、僕は食事をしない」と答えている。

 二人の関係性がわかるところでもある。仲のいい友達なのだ。

 ひょっとすると、まだ稼働限界が来ていないかどうか、主人公なりに確かめているのかもしれない。


 アンドロイドの彼の姿勢を「針金を刺したかのように背筋」とある。「針金入りのようにまっすぐ伸びた背筋」といいたいのではないだろうか。

 裁縫道具の針山みたいに背筋に突起がでているようなものを想像してしまう。でもそのあとに「背筋が伸びきっていて」とあるので、違うんだろうなぁと思える。


 彼らは屋上のどの辺りに、どういう状態でいるのだろう。

 アンドロイドの彼が「膝に手をかけ立ち上がり、くるりと後ろを向いてフェンスに寄りかかった。似合わない溜息が彼の口から零れる」とある。

 主人公は屋上の外か内、どちらを向いて座って食べているのだろうか。「周りの連中は弁当箱を閉じ」とあるので、主人公の目には他の生徒が食べ終わっていく姿が自然とみえている。ということは、屋上の内側を向いて食べている可能性が高い。

 二人は屋上のフェンス傍に座っていて、アンドロイドは立ち上がり「くるりと後ろを向いてフェンスに寄りかかった」とある。

 寄りかかるとは、他の物に体重をあずけてもたれかかる様をいう。このとき壁により掛かるなら、壁に触れているのは背中側だ。電車内で隣の人により掛かる場合は、隣の人といっているので、横になる。

 アンドロイドが寄りかかっている場合、「くるりと後ろを向いて」とある。

 この後ろは、主人公の背中側。つまりフェンス側。

 だからアンドロイドは屋上の外側、フェンスに身体の前面をフェンスにあずけるように寄りかかったのだ。

 主人公は屋上の内側を向いている。首をひねって後ろを見ても、「似合わない溜息が彼の口から零れる」みえるだろうか。


 一つ可能性が抜けていた。二人は最初、屋上の外側を向いて座っていた場合なら、「くるりと後ろを向いて」アンドロイドはフェンスに持たれることができる。

 このとき、主人公と向き合う形になるので、「似合わないため息が彼の口から零れる」姿が見える。おそらくこれだ。


 このあと、「魂が溶けたような顔でぼうっと遠くの景色を見つめるそれは誰がどう見ても恋する男子高校生そのものだ。彼の視線の先にあるのは錆びかけた緑色のフェンスと、その隙間の向こうの閑静な住宅街のみである」とアンドロイドの彼が、フェンス越しに遠くを見つめるシーンがある。

 アンドロイドの身長はどれくらいなのかわからないが、男子高校生並みと換算して、一七〇センチとする。屋上のフェンスは、それ以上の高さがあるから、「緑色のフェンスと、その隙間の向こうの閑静な住宅街」がみえるのだ。

 とにもかくにも、この辺りの立ち位置の関係がわかりにくい。


 それよりも政府はなぜ、「少子化が進むこの世の中で、政府はついにロボットを子供の中に混ぜてみようという安直で素晴らしい発想に至ってしまった」のだろう。

 子供の情操教育の一環だろうか。アンドロイドの成長を見て、子供たちも勉強を頑張ろうと思ってくれることを期待してだろうか。ゆくゆくは、教師をロボット化するつもりなのだろうか。アンドロイドを学ばせて、将来的にはアンドロイドをあらゆる職場に参入させるために、いまから下地を作っておきたいのかもしれない。

 それとも、コロナ禍における分散登校をした際、教室内に生徒の数が減るし、友達と話せずストレスが溜まることを懸念し、アンドロイド生徒の導入を検討したのかもしれない。


 それはともかく、いくら実験とはいえ最大稼働できるのが二年で、充電できない設計とはどういう設計なのだろう。万が一暴走して危害を加えたことも考慮して、制限を設けたのかもしれない。

 サンプルデータを取りたかったのだと邪推する。

 主人公は「こいつに告白というデータはインプットされていないらしい」といっている。

 おそらくネット接続していないのだろう。なので、机に座って勉強して知識を得ていく以外は、初期データにインプットされていることしかわからない作りになっているにちがいない。「開発者から依頼された内容はたた一つ、彼を普通の男子高校生として扱ってやるということ」ことからも、それが 裏付けできる。


「……伝えないとな」「菜種にその気持ちをちゃんと知ってもらうんだよ」と主人公がアンドロイドにいったのは、「普通の男子高校生として扱ってやること」といわれたのはもちろんだし、稼働限界が迫ってきているかもしれないことも当然ある。だけれども、日渡が彼に告白させようとしたのは、友達だと思っているから。

 そもそもアンドロイドの彼は「今までに無かった『思い』なんだ」と主人公に打ち明けたのは、日渡を友だちだと思っているから。

「僕が彼女に不快感を抱く理由なんてない。ただ、この感覚はデータのどこにもないんだ」といったアンドロイドの彼に「だからデータとか言うなってお前、もう少し人間ぽい表現の仕方あんだろ」日渡もロボット扱いをしていないことは明白だ。


 ラブレターを書かせて渡しに行こうとすると、アンドロイドが倒れてしまう。起き上がり、礼を言って、彼女に渡しに行く。

 送り出す主人公が実にいい。

 手助けしないのだ。

 彼女を呼び止めるでもなく、いつ倒れてしまうかわからないアンドロイドに着いていくわけでもなく、「じっとその背中を見つめ」るのだ。

 ついていってはいけない。なぜなら、アンドロイドの彼は男だから。

 一世一代の告白をしようとしているのだ。

 告白のアドバイスはできるし、お膳立ての協力も友達なら惜しまない。

 だが、相手に告白するときは誰の助けも借りてはいけない。

 身一つでいくのだ。持っていっていいのは彼女に対する思いだけ。

 それを主人公は、親友としてわかっているからこそ、声をかけるのも堪えて見送るのだ。


 そんな行動とはべつに、彼の心は叫んでいる。「何が『二年もてば万々歳』だよ。ちくしょう。きっかり三年もつバッテリー作ってから送り込みやがれ馬鹿野郎共がよ。普通の高校生の青春に、『バッテリー切れのため一年半でクラスメイトとサヨナラ』なんてイベント、組み込まれていいはずがねえだろうがよ。結局、十七にもなってまだ俺たちは向こうの好き勝手に振り回されるのかよ。んだよ、大人って。そうやって、また奪ってくのかよ。くそが」

 大人って勝手だ、ということが彼に何かあったのだろう。

 そして、アンドロイドが倒れたとき、その大人が現れる。

 回収しようとする大人に「馬鹿かよあんたは!? 見てわからないんすか!? あいつは今仕事をしている! ロボットとして! 高校生として! 一人の男としてだよ!」「あんた保護者ならもっとちゃんと見てろよ! あんたの子供が今、いま……」「がんばってんだって……」

 主人公が熱く叫ぶのは、アンドロイドの彼とは友達だからだ。

 

 アンドロイドが彼女を追いかけていく姿を見守りながら物語が終わっていく。続きが非常に気になるのだけれども、クライマックスで終える所がいい。

 たとえどんな結果になろうとも、親友の日渡はアンドロイドの彼を「よくがんばった! お前はすごい!」と褒め称えて抱きしめるだろう。だからここで終わっていいのだ。


 アンドロイドの彼は、ラブレターになんと書いたのだろう。

 ひょっとすると、「僕は菜種未知が好きだ」とだけ書いたのかもしれない。それもいい。それが一番大事だ。


 

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