恋愛相談から始まるラブコメ

恋愛相談から始まるラブコメ

作者 大官めぐみ

https://kakuyomu.jp/works/16816452220499770814


 読者モデルをしているクラスメイトの飯野栞に告白できず咄嗟に別の女子の恋のキューピッドを頼む茂木隼人だったが、誤魔化すのをやめて飯野に告白して結ばれる物語。



 正直、面白い。

 少女漫画なら、四十~六十枚くらいの読み切りで読んでみたい。

 前回と同様なら、今回の「カクヨム甲子園2021」でも誤字脱字等があっても大目に見てくれるとおもうので、目くじら立てていうつもりはないのが本音。

 疑問符や感嘆符のあと一マスあけてないとか、誤字脱字等があっても目をつぶる。

 つぶる前にひとこと。

 自分で作ったものは、他の人よりも作者がなにより大切におもっているはずだから、お願いだから書き上がったものを最低一度は音読して、誤字脱字等がないかチェックして、おかしい箇所があれば直してほしい。私も気をつける。

 

 タイトルはキャッチコピーのように、中身がわかる感じ。

 後半以降の一部、飯野栞視点で描かれる箇所があるものの、大部分が主人公、茂木隼人の一人称で書かれている。


 茂木隼人が屋上で、飯野栞が来るのを待つところからはじまる。

 一行目の句読点なしの一文がすごい。漫画の一コマのように、放課後の学校、グラウンド、天気、部活の活気と熱、校舎がみえてきそう。

 一文が長いからもっと短くできそう。だが、遠回しに説明するところに彼の性格と、これからはじまる恋愛の困難さを物語っている。


 登場してきたとき、彼の骨折はどうなっていただろう?

 運動神経はいい彼だが、バスケ部に入部して腕を骨折して退部している。

 練習中いきなり怪我して骨折したと仮定すると、「春を過ぎて夏に差し掛かっている五月」の屋上に彼はいる。

 初夏とは、五月上旬から六月上旬のこと。

 彼女が成績優秀だと、彼は知っている。後半、同じ中学だったことがわかるので、その頃から知っていると思われるが、連休明けのテストが返されて「やっぱり彼女は頭いいな」と思ったのかもしれない。

 ……と考え、テスト結果を知ったのが五月十五日あたりと想像。屋上に彼女を呼び出したのが、「五月の中旬、まだそんなに暑くなく、しかし暖かい今日この頃」だから。

 骨折して六週間経つと、ちょうど骨折がある程度固まり、ギプスは外れるころだ。完治は三カ月だから、無理ができないことがわかる。骨折したのが入学初日から一週間後くらいだったかもしれない。


 ――と、はじめは思っていた。

 だが、最後まで読むと、茂木隼人も飯野栞も高校二年生だとわかる。

 いつ入部したの?

 骨折が原因でバスケ部を退部した理由を回想しただけで、怪我したのは一年生のときかもしれない。

 三カ月したら完治する。周りとブランクができるとはいえ、バスケが好きならつづけても良かったのに。

 ということは、退部してからずっと、彼は帰宅部なのだろうか。

 それとも、一年生のときは帰宅部で、たまに人数が足らないからと助っ人でバスケ部に混ぜてもらっていたため、二年になって「遅ればせながら」と入部してみたら怪我してしまった、という可能性も考えられる。


 わからないけれども、五月中旬に告白する気になった理由はどうしてだろう。

 彼は飯田栞と同じクラスになり、カワイイなと毎日見ていた。同時に、告白しようとする男子の話を小耳に挟んだり、行動に移す場面を目撃したりしたかもしれない。このままでは先を越されてしまう。だったら四月でもよかったはずだ。

 そもそも彼は、彼女と同じ中学卒で、姉は読者モデルをしているのだ。その気になれば、他の男子より先に行動できるはず。

 告白するのが五月中旬でなければならない理由が、彼にはあったのではないだろうか。

 やはり、骨折が関係していると推測する。

 おそらく彼は、ギプスが外れたか完治したから、彼女に告白する気になったのだ。

 本当なら四月にするつもりだった。だが、思いもよらぬアクシデントに見舞われた彼。折れた腕で告白なんてカッコ悪くてできなかったのだ。

 当たり前だが、彼は振られたくないと思っている。

 不格好なギプスを付けたまま告白では様にならないし、礼儀を欠いてうまくいかないと考えただろう。なぜなら好きになった相手は、読者モデルをしている美人できれいで可愛くて、頭のいい飯野栞なのだ。

 自分のため、彼女のため、万全の準備を整えて、彼女を屋上に呼び出したのだ。


 なのに、このヘタレは、告白受け慣れしている彼女に怖じ気つき、事もあろうに彼女の前席にいる新井咲が好きだから告白する手伝いをしてほしいとお願いしてしまう。

 まるで名前を聞かれて咄嗟に、「ボ、ボクの名前は、江戸川コナンだ」と名乗った眼鏡のガキンチョみたいなノリだ。

 一話の終わりでこの展開。この先どうなるのか期待される、いい引きです。


 読者モデルをしている飯野栞や茂木姉の描写があまりないのはなぜか。

「読モ」や「学校の四大美女」、姉に至っては「学校のマドンナ」と説明されているが、綺麗なんだろうなぁとしかわからない。

 彼女の描写は、「艶がかった黒髪が太陽に反射しながら舞い、目の端でたなび」く長い黒髪と「女子特有の甘い香り」「漆黒の瞳」くらいだ。

 屋上で会ったとき彼女は制服を着ているとおもうけど、セーラー服かブレザーなのかもわからない。この辺りはお約束だから気にしなくていいのかしらん。


 デートのとき、普段見慣れた制服姿とはちがう私服姿で登場した際、彼女の容姿がはじめて少し描かれている。

 制服のもつ無個性さが「普通感」を生み出し、欠点すらも「普通化」してしまう所があるので、私服だと印象が変わるのはわかる。わかるんだけれども、制服を着ているときの彼から見た彼女の描写があれば、私服姿の彼女をみたとき「服もさすが読モというべきか超カワイイ」という気持ちがより現れてくる気もするのに……。


 姉の見た目が少ないのは、主人公が弟だからだろう。

 弟とは、姉にこき使われ……ではなく、姉を立てたりサポートしたり、いわれたことには百パーセント「はい、お姉さま」と従順であらねばならない生き物である。もちろん、姉からすれば異論は認めない。弟は姉には頭が上がらない、そういった力関係があるのが前提だ。

「モテル茂木千佳サンノ言ウコトハ違イマスネ~。………参考ニナリマス」

 このセリフからも、姉弟の力関係が伺える。

 主人公が「顔平凡、成績普通、友達そこそこ、センス皆無の俺と本当に同じ血が流れているのか不安になる」ほど、姉はファッションセンスもある読者モデルで、成績優秀、友達も多い同じ高校の三年生なのだ。

 勝てる要素が見当たらない。すでに負けているから、彼は姉をあまり見ないようにしているのかもしれない。

 なにより、彼が毎日見ているのは姉ではなく、飯野栞なのだ。

 彼女の描写がもっとあっていいはず。なのに、飯野に絡んでくる紋切り型のヤンキーたちのほうが、「髪の人もいれば腕に刺青タトゥーを入れている」「腰に巻いたチェーンをじゃらじゃら鳴らし」など、どんな格好をしているのかがよくわかる。

 でもどうして?

 おそらく、茂木目線だから。

 飯野に服を見立ててもらっているように、彼は服装やお洒落にくわしくない。

 飯野が綺麗で超カワイイのはわかる。わかるけれども、彼女の可愛さを上手に言語化できるような子ではないということだ。

 なので、「白いうなじが晒されて」「ミニパンからスラッと伸びている白い足」たまたま目に入ったとはいえ、興味のあるところに視線がむいてしまうところに男の子である彼らしさが現れているのだろう。


 六話でいきなり視点が飯野栞に変わる。

 とはいえ、サブタイトルに「彼女の話」と書かれ、ちょうど話数がかわったこともあって、違和感はさほどなく読み進められる。

 帰宅した彼女がベッドにダイブし「ボフンッと音をたてて私の体はバウンドする」ところなんて、寝心地のいい高反発マットレスの高いベッドで彼女はいつも寝ているのかしらんと想像してしまう。

 彼女が彼を好きになった三年前の話が語られる。

 以前の姉の話からだと、弟は告白しては振られた経験がある。なので、ひょっとすると、三年前のこのときは、茂木隼人は彼女のことを好きと思っていなかった可能性がある。ということは、先に好きになったのは彼女なのだ。

 栞は読者モデルの先輩の、茂木姉に電話して話を聞いてもらう。日頃から気遣ってもらえていることが伺える。

 

 双方の恋愛相談を受け、結果うまくいったのは、茂木姉の功労に他ならない。

 うまくいった二人にお礼の催促を、彼女はしなかっただろう。少なくとも栞に対しては。

 弟にはなにか要求――「お姉ちゃんのおかげでしょ」みたいに、ずっと言われつづけるかもしれない。


 主人公のヘタレによって巻き込まれた(?)新井さんは、最後になってようやく登場。

 彼は、「背は飯野さんよりちょっと低い。でも明るい茶色のショートボブで誰よりもうまく制服を着こなしている」と彼女を見ているし、「贔屓目に見なくても全然かわいい」と思っている。しかも、「ちょっと乱暴っぽいけどそれは彼女の外骨格みたいなものなの」と、本当によく見ている。

 彼が毎日みていたのは、飯野栞だよね? ね?

 茂木隼人は面食い、恋多き男子かもしれない。

 それはともかく、メデタシメデタシで終わる作品はいいものですね。

 

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