第3話 フランス語タイトル当てクイズ
「やっぱり、アクタルスもアニメ好きなんだ。スマホの壁紙がアニメだったから、そうなのかなって。あ、ごめんね。覗くつもりはなかったんだけど、偶然、見えちゃって」
「あ、うん。別に気にしないよ」
美少女イラストじゃなくて、「美少女の瞳に浮かぶ紋章」の壁紙だから、見られてもセーフなやつだし!
なお、女子との会話に浮かれている僕は、アリスさんが「アニメの壁紙」だと認識したということは、「美少女キャラの瞳の紋章」だということにも気付いている可能性を、完全に失念していた。
「ねえ、他にどんなアニメがフランスで放送されているの?」
「じゃあ、クイズ。フランス語のタイトルを言うから、当ててみる?」
「え。楽しそう。やる!」
「レベル0。《Naruto》」
「いやいや、そのまま過ぎる。ナルトでしょ?」
しまった。あまりにもクイズの内容が酷いせいで、初会話なのになれなれしい口調になってしまった。けど、アリスさんは気にしていないようだ。
「レベル0って言ったでしょー」
唇を尖らせて頬をプクーッと膨らませている。可愛い!
「第二問、行くよ。《Pokemon》」
「ポケモン」
《Bleach》
「ブリーチ。いや、全部そのまますぎだよ」
「それじゃ、少し難しくするね」
アリスさんが不適に笑い、次の言葉は、完全にフランス語ネイティブの発音で、早口だ。
《Kenshin le vagabond》
「えっと……」
流暢な発音過ぎて「けしるう゛ぁがう゛ぉ」って感じに聞こえた。
「もうちょっと、ゆっくり言ってもらってもいい?」
「いいわよ。《Kenshin le vagabond》」
僕は音を聞き逃さないように、アリスさんの唇をしっかりと見つめる。
形のいい薄ピンクの唇がつやつやしている。
凝視したら不快感を与えてしまうかもしれないかと思ったが、アリスさんは気にした様子もなく、ゆっくりと唇を動かしてくれた。
「けんしん、る、う゛ぁぎゃう゛ぉん」って言っていた。
俺じゃなかったら、聞き逃していたね。
ヴァガボンドのけんしんだ。バガボンドという侍の漫画もあるし、つまり……。
「るろうに剣心」
「《Felicitations!》 正解。じゃあ、次は難しいのいくわよ」
海外タイトルの想像クイズ、楽しいな。
アニメ、漫画、ゲーム、幅広く好きな僕としては、狙うは全問正解だ!
《Les Chevaliers du Zodiaque》
「え? も、もう一回」
「口の形に注意して発音を聞いてね。多分、アニメとかゲームとかでよく出てくる単語だよ」
「わ、分かった」
唇を見つめていいんだ。
女子の唇を間近からじっくり見るなんて、なんか、恥ずかしいな……。
《Les Chevaliers du Zodiaque》
り? れ?
れ、しゅばりえ?
ぞでぃあっく?
ゾディアックって言った?
ゾディアックと言えば、あの漫画のキャラだけど……。
主人公じゃなくて、仲間キャラがタイトルになっちゃったの?
「HUNTER×HUNTER……?」
「ぶっ、ぶー!」
うわっ!
びっくりしたー。アリスさんが嬉しそうな顔で、いきなり僕の頬を、指先でつついてきた。
やばい、ドキドキしてきた。
この子、鑑賞用のフランス人形じゃなくて、リアルの女子だ……! しかも、アニオタ仲間だと気付いてからの、距離の詰め方がエグい!
「《Les Chevaliers du Zodiaque》だよ。《Les Chevaliers》は騎士達という意味。でも『戦うヒーロー』くらいの意味で考えて」
「わ、分からない……」
「ジャンプ漫画が原作だというのはあっているよ。じゃあ、ヒントあげるからよく聞いてね?」
「う、うん」
胸がドキドキしていてアリスさんの唇を見るのが恥ずかしいから、僕は横を向いた。耳に意識を集中する必要もあるし、照れていることを悟られずに、ごく自然に顔を背けることができた。
でも、それはそれでアリスさんの吐息が耳をくすぐってくるから、ますますドキドキしちゃう。
今はクイズに、集中だ。全集中だ!
《Belier, Taureau, Gemeaux, Cancer, Lion, Vierge, Balance, Scorpion, Sagittaire, Capricorne, Verseau, Pissons》
……?
ゆっくりと十二個の単語を言ってくれたのは間違いないけど、ほとんど何を言っているのか分からなかった。
でも、いくつかは聞き取れたぞ。
スコーピオン、カプリコーンって言っていたと思う。
つまり、リ、シュバリエ、ゾディアックの日本語タイトルは……。
「聖闘士星矢?」
「《Excellent!》 凄い! 正解。じゃあ次もジャンプアニメ。凄く難しいよ。ヒントなしで分かったら、ご褒美に《embrasser》かな」
ご褒美に……アンブラシ?
なにそれ。
ブラシ? アンブレラ? 傘?
ご褒美はともかくとして、漫画好きとして、次も絶対に正解してみせる!
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