第3話
「ですがやはり天然ものが好きなんです!」
「あり得ない! 養殖のほうが油のノリだって良い!」
「話が魚にまで脱線してるぞ」
真司に指摘されて正気に戻る。
冷静にならなければいけないが、納得はいかない。だって僕の方が綺麗だ。
「つまり、男だと分かっていたのに手を握られて嫌悪感がなかった。から?」
「はい。この人とならお付き合いできると思ったんです」
「元も子もないことを言うけどさ、別に女性と付き合えば良いんじゃないの」
同性愛に偏見は多い。
ないよ、と言っている奴に限って身近に存在していると気持ち悪がるし、本当にない人でも数の暴力の前では助けてはくれない。
それでも、同性愛者が居ることは間違いないし、彼ら、彼女らは何も悪いことはしていない。日々を全うに生きている。
そういったコミュニティがあるとも聞くし、そこでパートナーを見つければ良いという真司の疑問はもっともだ。
「
「……複雑な家庭環境と見た」
ドロドロ昼ドラが大好きな真子が瞳を輝かせる。
だが、あり得る話かもしれない。例えば親御さんが同性愛否定派だとか、格式ある家なので子を残さないといけないとか。
そうなってくると話は全く面白くはなくなってくる。そんな自分の都合で告白されても嬉しくもなんとも、
「あ、いえ。むしろ母は彼女はまだかと急かしてくるくらいです」
「急かすの!?」
「すげぇ母親だな」
「……良い母親」
「父も私を男に取られるのは殺したいほど憎いが、女の子と一緒になってくれるなら狂喜乱舞すると言ってます」
「狂喜するんだ」
「すげぇ父親だな」
「……危ない父親」
しかしそうなるとますます訳が分からなくなる。
彼女自身も、そして家族も同性愛に寛容であるなら僕に拘る必要はまったくない。
「私が
「ただ?」
「ただ猛烈に好みの顔だったんです!!」
「分かる」
僕の顔が好みか。それはもう仕方がない、なにせ女装している僕は綺麗だから! そんじょそこらの女性じゃ勝ち目がないくらい綺麗だから!!
「男性だと分かっても嫌悪感が生まれないのであれば何も問題はありません! ただ! もう! ひたすらに顔が好みだったんです!!」
「だよね! 僕ってめちゃくちゃ綺麗だよね!」
「はい!!」
「
「じゃあお付き合いしてくださいますか!」
「嫌です!」
四月一日さんがこけた。
それはもうとても綺麗にこけた。
「どぉしてですか!?」
「どうしてと言われても……」
「四月一日さんがいつも感じていることを優真は言いたいんだと思うぞ」
あれだけ僕で楽しんでいた金髪が助け船を出す。良いタイミングで出航してくれるから本気で彼を憎めない。なんてことはなく、憎む時は普通に憎む。
「私が……?」
「あまり知らない異性に呼び出されて可愛いから付き合おうって言われている」
「…………」
「まあ普段四月一日さんが感じているほどのものじゃないとは思うけどね。僕は男だし」
「男に告白されたら?」
「げろろろろろ」
「……優真、汚い」
想像するだけでも朝ごはんが全部なくなった。こんなに恐ろしいものを普段から経験しているのか。
「お前だってナンパで慣れているだろ」
「学校っていう小さい空間でされるのが余計に気持ち悪いよ」
「ああ、終わったあとも顔を見るもんな」
「…………」
真司に指摘されて、四月一日さんが黙り込んでしまった。正直、落ち込ませたいわけではないから対応に困ってしまう。
学校一の美少女に告白されるとか嬉しい以外のなにものでもないんだけど、何と言うか……。
「つまり、まずはお友達からというわけですね!!」
絶対に嫌な予感がするんだよ、この子……。
「うん、話聞いてた?」
「大丈夫です!」
「何が?」
「私は美少女ですから!」
「自分の強みを理解しているのは偉いけどさ」
「これはもう諦めろ、優真」
「……どんまい」
「お友達なら良いですよね! お出かけしましょう! 女装して!」
「うぅぅん……、まあ、べつに」
僕としても可愛い女の子と遊ぶのが嫌だというわけじゃない。むしろ、役得感すらある。
「では、よろしくお願いします!!」
「こちらこそ」
お友達宣言。
僕と四月一日さんは握手を、
「……四月一日さん?」
「やっぱり、女装していないときに触るのはちょっとナシの方向で……」
ほら見ろォ!!
絶対にそうなると思ったよ! つまりあれでしょ!? 彼女と付き合うってことはずっと女装していないといけなくなるってわけでしょ!?
「嬉しそうな顔するなよ」
「困ったなー、女装する機会が増えるじゃないかー」
「……持ちつ持たれつの関係」
「この際、学校でも女装しましょう!」
「それはちょっと」
「
「絶対にやめて」
あの教師はまじで許可を出しかねない。
完全にホームルームには間に合わない時間になっていたが、根は真面目な四月一日さんが、先生にお願いしたのは告白の時間だけですので、と言うので僕たちは堂々と遅刻して教室に戻ることになった。
「おう、四月一日! 五月乙女に告白は出来たのか!」
開口一番にぶっちゃけてくれた担任には全力で黒板消しを投げつけた。
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