第2話
勘違いしてはいけない。
彼女が好きなのは、あくまでも女装中の僕なんだ。どうせ、僕は地味で何の取り柄もない男……。
「みたいな感じで落ち込む流れを踏まえてから正体がバレるものじゃないのかな」
「そうですよね……、いきなり告白されても驚きますよね……」
「驚いたのは、四月一日さんが僕の女装を見抜いている所からなんだけどね」
「でも、私は本気なんです!」
「僕の話聞いている?」
「まずはデートしましょう!」
「聞いていないね」
品行方正で成績良好、教師からの受けも良いと非の打ち所がないがない美少女であり、間違っても暴走列車のように喚き散らすようなキャラじゃない。
「結婚を前提でも問題ありません!」
「あるよ」
「ちょっと待ったァ!!」
「……たー」
来てくれたか!
毎朝セットに一時間もかけているツンツンヘアーの金髪と日本人形そっくりの前髪ぱっつん黒髪ヘアーの二人組。
僕が誰よりも信頼する幼馴染が、僕のピンチを見捨てるはずがないんだ。
「優真のどこに惚れたのか詳しく教えてもらおうか」
所詮、世の中で頼りになるのは自分一人なんだ。
真司を葬り去るのが先か、四月一日さんを止めるのが先か、それとも、
「ちぃ!!」
「……動かないで」
僕を縛ろうとしてくる真子を止めるのが先だ。
「見す見す捕まるはずがないだろう」
「……安心して」
「縛ろうとしてくる相手にどう安心しろと」
「……痛くするから」
「安心がどこにも見えなくなった」
よく見ると真子が持っているのは縄ではなく有刺鉄線だ。
僕を殺す気か。
「落ち着けよ、俺たちはなにも面白半分に首を突っ込んでいるわけじゃない」
「面白全部か」
「その通りだ」
ニヤニヤしている馬鹿面を殴りたいが、双子を同時に相手するのは分が悪い。勇気を出して乙女の告白に近しい何かをしてくれている四月一日さんには悪いが、ここは常識と良心に訴えかけさせてもらおう。
「もう少しでチャイムが鳴る。話は放課後にするのはどうだろう」
「
用意周到な四月一日さんを褒めるべきか、青春のためなら学業くらい疎かにすべしという自身の信念に嘘をつかない担任を呪うべきか迷う場面だ。
「色々聞きたいことはあるけど、まずはどうして変態女装野郎を好きになったか確認といこうか」
仮にも親友を顔色変えずに変態と罵る真司の神経はきっと腐り切っているんだろう。彼が場を仕切っていることも謎ではあるが、このまま駄々をこねていても何も進展はしないので渋々受け入れることにする。
「その、ありがたいことに私はよく告白を受けるのですが」
「本音は?」
「非常に迷惑でして……」
真司の乗せ方が上手いのか、四月一日さんが意外とノリが良いのか分からないが、ほぼ毎日告白されている身からすればそれは迷惑と感じても仕方はないだろう。
「幼い頃からずっと続いていて、実はあまり男性が得意ではないんです」
「本音は?」
「女性が好きなんです」
これはもう真司がどうこうじゃない。
たった数分の内にどんどん四月一日さんの印象が崩れていくんだけど。
「だって女の子って可愛いじゃないですか! ふわふわしていてキラキラで良い香りだってするし!!」
「すごい分かる」
「男は基本ガサツで馬鹿で乱暴者でどれだけ自分を自慢することしか考えてないっていうか! 所謂モテる男性のほうが自分に自信があるせいでぐいぐい来るのがもう本当にあり得ません!!」
「モテる男は消え去るべきだな」
「同感です!!」
ガッツリ熱い握手を交わしている二人を眺めながら、どうやってここから逃げれば良いかだけを考えている。
「……諦めたほうが良い」
「知ってる」
「そうすると、四月一日さんが言いたいのは優真にちょろっと身体を改造して女になれということか」
「それも考えましたが」
「断固拒否する」
僕は綺麗な僕が好きなだけで女に成りたいわけじゃない。
男のままに女性を愛したいんだ。
「昨日腕を掴んで頂いた時に、嫌な気持ちにならなかったんです」
「ほほう。……ん? てことは、腕を取られた時には女じゃないって気付いていたってことか?」
「嘘だろ!?」
女装は僕の趣味であり特技だ。
昨日は僕が彼女を助けたが、僕がナンパされることだって何度もあった。至近距離で見られてもまったく男だとバレたことがない。ムダ毛処理は勿論のこと、薄手のストールで喉元だって隠しているし、練習に練習を重ねた女声は真司すら騙すことに成功しているんだぞ。
ナンパ野郎から彼女を助ける時に、僕は声を掛けてすぐに手を取った。取る前に気付いたということは第一声の時点ですでにバレていたことになる。
「どこで!? どこで男だって気付いたの!?」
「ええと……」
「告白されたことよりも反応が良いのも考え物だな」
「……優真は変態だから」
「教えて、四月一日さん!」
「む、」
「む!?」
「ムラムラしなかったので……」
「…………は?」
「とても綺麗で好みの外見なのにムラムラしなかったので、ああ、女性じゃないんだなと」
「なるほど、確かに無類の巨乳好きは、それが天然かどうかを一目で区別するというが、それに似たようなものか」
ムラムラしなかった。
しなかったから、女性じゃないと気付かれた……?
「納得いかない! そんじょそこらの女性より僕の方が綺麗だ!!」
「それはもう本当に綺麗でした!」
「じゃあ、ムラムラしてよ!!」
「学校一の美少女にムラムラしろよと叫ぶとか勇気あるな、こいつ」
「……優真は変態だから」
周りに他の人がいなくて助かったと気付いた時には、僕も四月一日さんもそれはもう聞かれちゃいけない単語をひたすらに叫んだあとだった。
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