呪いのラジオ
家に帰ってきて、突然背筋が凍るように冷たくなった。家庭の温かみを感じて、改めて先ほどのおじいさんの家の不気味さを思い知ったのかもしれない。とにかく、もうあの家に行くのはやめよう。
テレビでは夏休みらしく、怪談番組が始まった。幽霊を目撃した女性が、霊能者と一緒に一晩祈り続けて難を逃れたという話だった。僕も、お祓いしてもらったほうがいいだろうか。
母に、今日あったことを相談してみた。半信半疑で聞いていた母だったが、実際にあの家にいた僕の姿に何か心細さと気味の悪さを感じたと言い、「せめて今日一晩、仏壇のある部屋で寝てみたら?」と提案された。
仏壇のある部屋も、ご飯をお供えする時以外に出入りしないので昔から少し怖さがあった。しかし、今日のあの家と比べればいくぶんマシだと言い聞かせ、仏間で眠ることにした。
夜中の12時。ラジオを仏壇に供え、ろうそくの火をつけ、お祈りした。やり方が合っているかは分からないが、数珠を握って目をつむり、一生懸命に祈った。
静まり返った和室に、ジジ…とろうそくの燃える音がする。
外は相変わらず、強い風が吹いている。
空気が湿っている。雨が降っているのかもしれない。
目を開ける。
…ろうそくが異様に減っていた。まっすぐに伸びていた白いろうそくが、どろどろに溶け、いびつに歪んでいる。また背筋が凍った。冷静になろうと努力しても、変な汗がだらだらと流れてくる。
眠れるわけがなかった。僕は無駄かもしれないと思いつつ、仏壇に向かってすがるように必死に祈った。
一晩祈り続ければ、あのテレビ番組の女性のように救われるだろうか。でももし、仏様より強かったら…?そんなことを考えながらも、とにかく祈った。
ガバッ!
突然、後ろから何かにしがみつかれた。右腕は完全に封印され、肩に生ぬるいものがのしかかってくる。
殺される。
“それ”には、明確に手があった。僕の腹に手指が当たっているのがはっきりと分かる。でも、何をしようとしているのかは分からない。
大声を出して、母に助けを求めたかった。しかし、声が出ない。体が重くてのどが詰まり、声が出ないのだ。
それでも僕は、必死で声を出そうとした。かろうじて動く左手で、壁を叩こうと手を伸ばす。届かない。
「あ…あ…ああああああ!」
声が絞り出た。
その瞬間、目が覚めた。朝だった。
シャっとふすまが開き、母が現れる。
「あんた、どうしたの!大丈夫?苦しいの?」
ふと我にかえると、汗がびっしょりで頭がクラクラしていた。顔色が悪いと言われる。しかし、体には特に異常はなかった。
「あんな家なんかに行くから、変な夢でも見たんでしょう」
夢…?そうかもしれない。しかし。
仏壇のろうそくは、やはりいびつに曲がっており、どろどろに溶けたまま固まっていた。勝手な想像だが、かなり強い呪いがこのラジオにあって、侵入を許してしまったものの、かろうじて仏様が守ってくれたのだろう。
仏壇に祀られている祖母と父に感謝した。
風は、やんでいた。
後日、近所の大きな寺にラジオを持ち込み、お祓いをしてもらった。どんな呪いが込められているのかは謎のままだが、これ以降、怪異に悩まされることはなかった。
突然のもらいものには、ご注意を。
呪いのラジオ 空沢小羽 @sorasawa
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