第1-2話 ドナーダイブ
「あら、まもるちゃん元気にしてた〜?」甲高い声が護送車に響き渡る。
「そっちも元気そうで何よりです。咸月、彼女は」進藤は咸月の方を向いて応えた。
「なべちゃんから聞いてるわよ、あなたが新人の紬ちゃんね。私は榊 結(さかき ゆい)。よろしくね紬ちゃん」
「榊さん、よろしくお願いいたします」咸月は答えた。
「彼女は検視課所属している医師だ。主に被害者の死体の検視を行い俺たち特別行動課に状況を報告してもらっている。死体の件で気になることがあるなら彼女に相談すること」
「榊さん、早速だが時間がない。被害者の死亡理由を簡潔に説明してください」
「もー、せっかちね。せっかく久々の再会だってのに」仏頂面で彼女は被害者の状況を説明し始めた。
「被疑者の名前は桂木美琴27歳。おそらく死後48時間程度経過しているわ。死因は恐らく首を絞められたことによる窒息死。彼女の首周についていた指紋と容疑者の指紋が一致している事から間違いないわね」
「咸月、被害者-加害者間の寿命の関係性は知っているか?」進藤が尋ねた。
「はい、研修で習っています。被害者が生き返った後の寿命は加害者の残りの寿命に依存する」
「そうだ。ただ一点補足するとすれば容疑者の死後の経過日数にも大きく依存すること。」進藤は続けた。
「仮に容疑者の寿命が同じだった場合で死後3日以上経った死体と3日以内の死体とで行った際、前者は後者よりも寿命が短くなる。仮にライフトレース直後の殺人者の寿命の残りが10年だとすると、前者では10年であるが後者では3年以下となる。これは俗に死の非線形領域と呼ばれている」
「だからこそ俺たちドナーとそのサポート役バンカーはドナーダイブを使って可及的速やかに被害者の記憶を調査し、容疑者と被害者のライフトレースを行う必要があるんだ」進藤は説明した。
「あらら、後輩の前だからと言ってカッコつけちゃって」
榊は微笑んだ。
「そんなんじゃないですよ」進藤は応えた。
「一つ質問があるのですが」
「なんだ?」
「サイコープのトリガーとなるのは何なのでしょうか?」
「被害者の命の残穢(ざんえ)と呼ばれるものを辿ると加害者の命の思念体のようなものにつながっている。それに接触することがサイコープのトリガーとなり、容疑者を一時的に失神させることができる」
「百聞は一見にしかずよ。まずは余計なことを考えずに彼の指示通りに動いてみなさい」榊は応えた。
「ただし、」榊は話を続け、
「バンカーであるしんちゃんはあくまでもあなたをサポートするだけ。バンカーはあくまでもドナーの力を媒介としてダイブ中にドナーとコンタクトを取ったり、被害者の記憶を確認することのみ。それに対しドナーは被害者の記憶に干渉することで擬似的に当時の体験をすることになる。その為体力や精神的負担が大きい。だからこそダイブ中は必ず彼のいうことを聞くこと。私も可能な限りあなた達二人をサポートするわ。」
「はい、わかりました。」
「さぁ、行こう、彼女の命を取り戻すぞ」
「はい!!」
「必ずあなたを助けてみせる。」
紬は冷たくなった桂木美琴の手を力強く握り、祈った。その瞬間、あたり一面が真っ暗となった。
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