第1-1話 咸月 紬(みなつき つむぎ)

「本日付でこの課に配属となりました咸月 紬(みなつき つむぎ)と申します。甘利課長、よろしくお願いいたします」緊張気味な声で咸月は言った。

梅雨の時期となり最近は昼夜問わず雨が間断なく降り続いていたことから、現場の雰囲気をより不安にさせていた。

「公安局特別行動課の甘利だ。着任早々悪いがすぐに取り掛かれるよう準備をしてほしい」見た目から年齢は40代ほどでスーツがよく似合っていた。甘利は淡々とした口調で事件のこれまでの真相を説明した。

「容疑者は藤本康太郎。32歳男性。交際中だった被疑者を殺害し逃走。近隣情報や監視カメラから容疑者はこのエリアに立て篭もっていることがわかっている」

「厄介なのは現場近くの女性を人質にとっていることだ」甘利は続ける。

「現在容疑者の説得に当たっている状況だが、こちら側の要求をほとんど無視している。このままだと危害を加える可能性も高い」

「住民の避難は完了しているのでしょうか?」咸月が訊ねる。

「近隣住民の退去は完了している。残るは容疑者と人質のみだ」

「亡くなった被害者の死体は今どちらにありますか?」

「この奥の車両の中だ。カプセル安置護送車の中に保存されている。警官と救急隊が駆けつけた時には死後48hほど経っているそうだが詳細はドナーである咸月、君にも調査してもらいたい」

「今回君をサポートする人物達を紹介しなければいけないな。おい、二人ともこっちに来てくれ」甘利が別テントにいる男二人に声を掛ける。

「進藤、曇だ。他は別の事件で出払っている。今回はこのメンバーで行う」

「お、その子が新人ちゃんだね。なかなか可愛い子じゃないか、オイラは曇、曇 鷹大(くもり ようだい)」曇はお気楽な声でいった。

「進藤 守(しんどう まもる)だ、よろしく頼む」

「あ、は、はい!咸月 紬です、よろしくお願いいたします!」

両者の性格は真逆のイメージだが二人の年齢は変わらないくらいだろうかと咸月は思った。

「進藤、せっかく新人の子が来たってのにテンション低いじゃん」

「お前は公務中だってのに気楽すぎるんだよ」

「二人ともよさないか」甘利が仲介に入る。

「今回の作戦を簡潔に説明する。咸月は被害者のドナーダイブを行ってもらい、藤本康太郎が被害者を殺したという物的証拠を見つけること。これを押さえてしまえばサイコープができるはずだ。サイコープ発令と同時に容疑者を捕獲する」甘利は力強く説明した。

「ドナーダイブを行う際のサポートは進藤、お前に任せる。曇、お前は俺と一緒に同行しろ」

「ええぇ、俺じゃないの? せっかく新人の子と仲良くなれるチャンスだったのに...」曇は不機嫌そうな口調で言った。

「進藤、咸月、取り急ぎ被害者の死因の調査に取り掛かってくれ。咸月、細かい話は進藤から聞けばわかる。よろしく頼むぞ」

「はい!」と咸月は応えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る