第10話 異世界のハーメルンの笛吹
ぼくちゃんは、翔太とともにまずは昼間クリスに案内してもらった広場を中心に聞き込みを始める事にした。
子供を攫われている家族の情報を、いち早く入手できると考えたからだ。
「そうは言っても、どの家庭の子供が攫われてしまったのか見当もつかないな…」
翔太が顎に手を当てつぶやいている。
「確かにそうだな、まずはどこの家庭の子供が最近攫われたのか情報を集めることから始めた方が良さそうだな」
翔太はぼくちゃんの意見に賛同してくれた。
昼間の広場についたら何人かのエルフが集まっていたぼくちゃんは、エルフたちに子供がいつ最近攫われたのか聞いた。
エルフたちが言うには、武器屋の子供が攫われたことが分かった。
ぼくちゃんと翔太は武器屋に向かうことにした。さすが、エルフの村の武器屋という感じで、何に使うか分からない魔道具が置いてある。
翔太は杖を手に取り、ぶんぶんと振っている。
さすが、ゲーマーといったところ、ゲームに出てきそうなアイテムに興味津々だ。
完全に捜査のことを忘れている翔太のことを放っておいて、ぼくちゃんは武器屋の店主の話を聞くことにした。
「私の娘がいなくなったのは、1週間くらい前、とても真面目でいい子でした。どこにいってしまったのか・・・」
店主は説明した。店主は、40歳くらいなのだが、ガタイの良い体に白髭を蓄えた渋い見た目の美形だ。武器屋の店主まで美形とか世の中は理不尽だ…。
「いなくなったのには、いつ頃気づきましたか?」
ぼくちゃんは、店主に聞いた。店主は相当落ち込んでいる様子だ。
「早朝に気付きました。いつもは、起きている時間に娘が起きてこないと思い、ベットに行きましたが、そこに娘の姿はありませんでした」
つまり、失踪したのは夜の間ということになる。
「失踪する前、娘さんに変わったことはありませんでしたか?」
「特になかったと思います。あっ何か笛の音が聞こえるって言ってました」
笛の音は決まって、夜に聞こえるらしいが、店主にはその音は聞こえなかったそうだ…。幻聴の類だろうか。
ぼくちゃんが考えていると、後ろで爆発音が聞こえた。咄嗟に振り返ると壊れた壁と杖を持ち、呆然とする翔太がいた。
「―な、なにが起こったんだ!」
ぼくちゃんは、呆然と立ちすくむ翔太に尋ねた。
「で、でた。魔法だ!」
出ちゃったか・・・。喜ぶ翔太を尻目にぼくちゃんは店主に土下座をした。
幸い店主のやさしさでお咎め無しということになったが、ぼくちゃんと翔太は逃げるように店を出た。
「ヒヒッ、マジで焦ったな!魔法が使えるなんて」
翔太はまだ興奮が収まらないみたいだ。
「本当に焦ったよ…あんなところで杖振るなんて…武器屋の店主が許してくれて本当に良かった。まあでも、武器屋でいい情報を集める事ができたし収穫はあったね。」
「そうだな。何か笛の音が聞こえるって言ってたよな。笛っていったら道具屋においてあるかもしれないな。」
翔太の意見もあり、次は道具屋に向かうことにした。
道具屋には、訳の分からない道具がたくさん並んでいた。薬草や冒険に必要なもの何でもそろっている。
「翔太!!また、その辺のもの触って迷惑かけるなよ。」
ぼくちゃんは翔太にくぎを刺した。
「ヒヒッ、わかったよ。大人しくするからさ。」
翔太はそう言いながら、色々なものに手を取っている。
(本当にわかってるのかよ…まぁ、その前に道具屋の店主に話を聞いて新たな情報を見つけた方がいいな。)
ぼくちゃんは、店のカウンターに行ったが店主はいない。
大声で呼んだが誰もいないみたいだ。どうしたものかと困っていると、裏の勝手口から店主らしきエルフが現れた。
「お客様、お待たせして申し訳ございません!!」
店主が慌ててぼくちゃんのいるカウンターにやってきた。
「すみません、お聞きしたいことがあり立ち寄らせていただきました。急なご質問で申し訳ございませんが、最近子供が攫われる事件が起こっている事はご存知だと思いますが、何か知っている事があれば教えていただけますでしょうか。」
ぼくちゃんは、迷惑だと思いながらも質問した。
「子供の誘拐事件ですか…私が知っているのは、最近武器屋のお子さんがさらわれてしまった事ぐらいですね。あと、さらわれている時間が夜ということです。」
店主は、絞り出すかのように答えてくれた。
(みんな攫われた時間帯は、一致しているみたいだ。他に情報があれば今後の調査が楽になる聞いてみようか…)
「他に何かご存知の事はありますか?」
ぼくちゃんは、店主にそう質問したが店主は困った顔をしてその後申し訳なさそうに首を横に振った。
もう、情報が聞き出せないと思いぼくちゃんは翔太を呼んで道具屋を後にすることにした。
帰り際店主が、ぼくちゃんに何か言いかけたみたいだが翔太に呼ばれたので急いで道具屋を後にした。
その後、いくつか心辺りをあたったが、どこも似たような情報しか得られなかったため、一旦宿に戻った。
「ヒヒッ、なぁ、ハーメルンの笛吹って童話知ってるか?」
翔太が唐突に聞いてきた。
「ハーメルンの笛吹?」
「ああ、むかしむかし、ハーメルンって街があって、街を荒らすネズミに困ってた。そこで、笛吹にネズミ退治を依頼したんだが、街の人はネズミ退治に成功した笛吹に報酬を払わなかった。怒った笛吹は笛の音色で子供たちを魅了し誘拐したって話」
ハーメルンの笛吹、確かに今回の事件に似ている・・・。
ハーメルンの笛吹の話を終えた翔太は続けて「で、俺は今回の事件ハーメルンの笛吹に近いものだと考えている。子供にしか聞こえない笛の音。夜に突如としていなくなる少年少女。普通家に誰かが侵入したら、誰かしら気づかないか?」と言う。
つまり、子供の方から家を出たということだ。
「そういうことなら、夜に街で張り込みをしないか?何か分かるかもしれない」
ぼくちゃんの提案に翔太は首を縦に振る。
そして、ぼくちゃんと翔太は宿で仮眠をとり、夜中に張り込みをすることになった。
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