第6話 ぼくちゃんは転生者だー

「ヒヒッ」

いつの間にかモリーナの後ろに立っていた翔太は、モリーナに悪魔の囁きのように、話した。


「足、切り落としちゃえば、いいんじゃない。そうすれば、こいつの命は助かる」


「でも…」


モリーナはどうしたらいいのか迷ったかのようにつぶやく。

ぼくちゃんはどうしたらいいかわからず、モリーナと翔太を交互に見ている。


「ヒヒッ、どうするんだよ?モリーナとやら!このままにしても時間の問題でこの魔法も切れるんだろ?そうしたらみんな死ぬぞ。。。」


翔太は周りの状況を把握したうえで、最善の策だといいたそうにしている。

ぼくちゃんもモリーナも翔太に反論できない。三人とも黙り込んでしまった。

その沈黙を破ったのは清麻呂だった。


「吾輩、吾輩死んでしまうデェフかああああああ?」

毒のせいで、意識が混濁しているのだろうか、モリーナに掴みかかり、押し倒す。


「嫌だ、嫌だ、嫌だ!!!せっかく、異世界に来たのに、つまらない人生を変えられると思ったのに、これからみんなと冒険したかったのに」


押し倒されたモリーナの顔に滴が垂れる。汗ではない。それは、清麻呂の涙だった。


「ずっと、馬鹿にされてきたんだ!アニメがすきだからって、オタクだからって!なんで…なんで自分の好きなことで馬鹿にされないといけないんだ…」


「でも、それを隠すのはもっと嫌だったんだ。好きだったから、愛していたから。だから、無理しておちゃらけてたけど・・・。けど、誰もぼくを愛してくれない…」

そう言い残し、清麻呂は泡を吹きながら、モリーナの胸の上で気を失った。


モリーナは清麻呂の頭に腕を回し、「大丈夫、好きなことを好きっていえるあなたは強い人だから、いつか誰かに愛されるから…」ひと呼吸おいて、エルフの里を見つめ、「絶対死なせないから!」と叫んだ。


モリーナは、矢が放たれているエルフの里を睨みつけている。


翔太は清麻呂の必死な訴えとモリーナの言葉を聞き黙り込んでしまった。

ぼくちゃんも、翔太と同じように何も言い出せなかった。

なぜなら、清麻呂の言っていた言葉がぼくちゃんの胸に突き刺ったからだ。


翔太は座り込んで何かつぶやいている、モリーナは清麻呂を抱き足の状況が悪くならないようにぼくちゃんを守っている魔法を維持しながら回復魔法を使っている。


ぼくちゃんは、その光景を目にして決心がついた。

清麻呂は、自分の気持ちをぼくちゃんたちに打ち明けてくれた。

そんな清麻呂の気持ちに応えないほど心は腐ってない。


「助けてやる、絶対死なせないから!」

ぼくちゃんは、清麻呂にそう叫び魔法の中から飛び出した。


「馬鹿。馬鹿が死んでしまうぞ!!!!!!!」

翔太が後ろでそう叫んでいるが、ぼくちゃんはそれを無視して突き進んだ。


モリーナが翔太の声でぼくちゃんが魔法から出たことに気付いて止めようとするが清麻呂を支えているので動くことが出来ないみたいだ。


ぼくちゃんは、矢が降る中叫んだ。


「ぼくちゃんわぁーーーーーーー、転生者だーーーーーーーーーーー。」


その時のぼくちゃんは、後先考えずに飛び出していた。

すぐ目の前に矢が何本も来ている。(どうしたらいい?…)

やばい、このままなら串刺しになってしまう…


「しゃがめーーー、右斜めに転げって伏せろ。」

後ろで翔太の声が聞こえる。

ぼくちゃんは、その声に反応してその通りに動く。


(あれ?…矢がこない)


「ヒヒッ、急に飛び出してびっくりしたぞ飛び出すときは矢の行く方向やその場の地形を考えてから行動しろ!」

翔太が魔法の中でそう言いながらどや顔でぼくちゃんを見ている。


「いま、その場所はちょうど矢の飛んでこない死角になっている所だ。ヒヒッ我の指示通り動け。このゲーム勝たせてやる!」


翔太はとあるFPSゲームの世界ランカーである。

なぜ、彼がプレイヤー人口1億のゲームのトップに居続けることが出来るのか。それは、圧倒的状況把握能力にある。

一瞬の時間で敵の位置、さらには敵の性別、容姿、年齢、能力を予測し、それを地形と組み合わせることにより、先読みを可能にする。


「次!斜め45度前に2メートル移動!」

翔太は、叫ぶ。矢はぼくちゃんの30センチ横にあたる。


(すげぇ!!!矢が自分から避けていくみたいだ)


「次!7メートル右に移動!」「次!後ろ斜めに4メートル移動!」

翔太の指示が飛ぶ。その指示どおりに動くと面白いように矢を避けることが出来る。


だが…このままだとぼくちゃんの体力が持たない。

翔太の指示どおりに動けば矢の当たらない場所に移動できるが…

エルフたちの矢の能力はものすごいということが分かった。

なぜなら、同じ場所には数秒間しか留まることが出来ないからだ。


「畜生!生身の人間に指示するのは難しい…ゲームのように体力が一定に落ちたり回復することがない。個人差が…だから面白いヒヒッ」


翔太は何かつぶやいているが、ぼくちゃんは必死に矢をよけているので何をつぶやいたのかわからなかった。


「はぁ、はぁ、まだか翔太!」

ぼくちゃんの体力も限界に近かった。


「まだだ!次、5メートル左に移動!」

翔太の指示はその後も続けた。一見、矢を避けるため、無造作に動いているように見えるが、着実と勝利へと近づいていた。


あと3手―

「次、3メートル左に移動!」


あと2手―

「次、5メートル前に移動!」


あと1手―

「チェックメイト」

翔太の言葉と共にぼくちゃんは、前から倒れこんだ。

「よくやった!俺たちの勝利だ」

そこは、エルフの里の門の前だった―
























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