第5話 足、切り落としちゃえば、いいんじゃない

「わたしは、モリーナ。」

モリーナと少女は名乗った。


ぼくちゃんは、少女をじっと観察した。

絹のようにきれいな金髪、異国情緒あふれる褐色の肌。

うん、美少女。元の世界でもテレビの中の芸能人くらいでしか見たことがない。

いや、むしろそれ以上のレベルだ。

さらに特徴的な尖った耳をしていた。


「もしかして、きみってエルフ?」

ぼくちゃんは、モリーナにきいた。


「そう、だけど…」

モリーナはそう答えた。


その瞬間だった、後ろから悲鳴のような興奮した声が聞こえてきた。


「やっぱり…やっぱり、そうだったデェフかああああああああああ!」


清麻呂が興奮してそのあたりを走り回っている。

モリーナから借りているマントが、みしみしとさっきよりも裂けてきている。


翔太は、物珍しそうにモリーナを舐めまわすように見ている。


「あ!ぼくちゃんたちの紹介がまだだったね」

ぼくちゃんは、思い出したようにモリーナに説明した。

自分たちのこと、そして女神ラプスによって異世界に転生させられたこと。


「やっぱり、あなたたち転生者だったんですね!!!」

それを聞いたモリーナはさっきと打って変わって、笑顔になる。


「そうだけど…転生者ってそんなに珍しいの?」


「はい、それはもう!わたし100年くらい生きてますけど、はじめて会いました」

(この見た目で100歳⁉見た目中学生くらいだけど・・・)


モリーナが言うには、数百年に一度の割合でこの世界に転生者が現れるらしい。

(そうだったのか・・・)

ぼくちゃんはこの世界の仕組みが少しわかったことに嬉しさを感じた。


「ちなみに、モリーナはどこから来たの?」

ぼくちゃんはもっとこの世界を知るには、モリーナについていくことが一番近いと考え質問してみた。


「どこって、エルフの里だけど?」

当たり前のように答える。


「エーーーエルフの里デェフかああああああ」

清麻呂は後ろで叫んでいるが、相手にするのも面倒になってきたので無視してモリーナに質問をする。


「ちなみにぼくちゃんたちが一緒に行きたいっていったら困る?」


「えっ、別に困りはしないけど…でも」

ぼくちゃんは、モリーナが含みのある言い方をしたことに気づいたが、他の2人は異様な盛り上がりを見せていた。


「たくさんのエルフたんに会えるデュフーーー!」

「ヒヒッ、楽しみですねぇ」

(行く気、満々かよ…)と思ったが、正直ぼくちゃんもめっちゃ行きたい。


そんな、こんなでモリーナにエルフの里まで案内してもらうことになった。


いざエルフの里に案内してもらう時、モリーナが落ち込んでいるように見えたので声をかけてみた。


「モリーナ大丈夫?顔色が悪いみたいだけど…」


「えっ、別に何でもないよ…」

モリーナは笑顔で返事をしたのだがどこか不安が混じっている気がしてぼくちゃんはそれ以上質問することをやめた。


モリーナはぼくちゃんたちが危なくないように、少し遠回りになるが安全な道でエルフの里まで案内してくれた。

行く途中では、清麻呂と翔太が仲良く騒いでいてとても和やかな雰囲気だった。

(普段はあんなに二人とも仲が良くないのにな・・・)


「もうすぐで到着するよ。」

モリーナがそう言った。気のせいだろうか、なんだか声に元気がない。


「デュフーーー!デュフーーー!デュフーーー!デュフーーー!」

「ヒヒッ、楽しみですねぇ」

2人のテンションは最高潮に達している。


「吾輩が一番乗りデゥフーーーー!!!」

エルフの里が見え、清麻呂が走っていく。

ぼくちゃんとモリーナは、体力のない翔太に合わせて、ゆっくりと後を追う。


「いやーーーデゥフ!やめるのだーーーー!」

清麻呂の叫び声が聞こえた。


「敵襲!!!オークが村を攻めてきたぞぉぉぉ!!!」


エルフたちは清麻呂めがけ、大量の矢を放つ。

そのうちの1本が清麻呂の足を貫通した。


「ビギィィィ!!!」

清麻呂の断末魔があたりに響いた。それでも止むことのない矢の雨。

清麻呂は半ば転がるように逃げ、近くの岩陰に隠れた。


ぼくちゃんもすぐに清麻呂の元へ駆け寄ろうとしたが、「まて、いま行くと我々まで巻き添えになる」と翔太に静止させられる。


「でも、このままじゃ清麻呂が!」

清麻呂はうずくまり、矢の刺さった足をおさえてる。


「痛いデェフかああああああ!!!」

清麻呂は、痛みにあまり叫びハンドスピナーのように地面を回りながら騒いでいる。


「大丈夫、傷はそんなに深くない。少し痛むけど安心して!」

モリーナが回っている清麻呂に叫ぶが聞こえていないようだ。

モリーナが近づこうと身を乗り出す。


「巻き添えになる」


ぼくちゃんは叫んだ。


「でも、このままじゃあのデブが…私がみんなをこのエルフの里まで案内したんだから連れてきた私に責任がある。」

そう言いモリーナは清麻呂を助けに駆け出した。


『パラソルフラワー!』

モリーナの頭上にキキョウの花が現れ、矢の雨をはじいていく。

そのまま、清麻呂の隠れる岩場まで無事に着くことができた。


「デブ!大丈夫か!」

「うっ…」

清麻呂は小さく頷く。モリーナは、清麻呂の傷を見て、顔を青くした―


「これは…ひどいわ」

清麻呂の足は矢が刺さっている所を中心に通常の5倍近く、腫れあがっていたのだ。


「ど、どうしよう。これは、エルフの里に伝わる秘伝毒。このままじゃ…全身に毒が回って死んでしまう」

モリーナは、必死で考えた。どうすれば、この傷ついて、哀れな人間を救うことが出来るのか。

しかし、彼を救う方法は―

それは、彼にとって、とても残酷で悲劇だ。

それは―


「足、切り落としちゃえば、いいんじゃない」

モリーナは、はっと後ろを振り向いた。

そこには、翔太が立っていた―





















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