第3話 異世界の洗礼

『オーク』の群れってマジかよ…ぼくちゃんは開いた口が塞がらない。

オークの群れに追いかけられいる清麻呂は、異世界に来たことを楽しんでいるかようにみえる。


「あいつはやっぱり頭のねじが足りないみたいだな…ヒヒ」

翔太がつぶやいている。


(この状況でよく冷静でいられるな...)

ぼくちゃんは翔太のつぶやきに感心する。


「ヒヒッ...とりあえず、逃げますか」

翔太の言葉にぼくちゃんは、考えることを止め、走り出した。


「デゥ、デュフ、まってくれよ~」

後方では清麻呂の叫び声が聞こえてくるが、振り返っている余裕はなかった。


「翔太、どこに向かって逃げる?」

ぼくちゃんは、隣を歩いている翔太に聞いたが、返答はなかった。


「翔太?」

隣を走っていると思っていた翔太は、ぼくちゃんの遥か後ろにいた。


「ヒ、ヒゥ、ずっと引きこもっていましたから、は、はしるのは、苦手でして……」

ぼくちゃんもかなり足は遅い方だが…


翔太は手を横に振りながら変な走り方をしている、まるでゾンビのようだ。

ぼくちゃんは、仕方なく翔太を迎えに走ってきた道を戻って翔太の手を引っ張り走り出した。


いつの間にか清麻呂がすぐそこまで来ており、『オーク』の群れが目と鼻の先だ。


「ハァ、デュフ、ハァ追いついた~デュフ」

案外清麻呂の足が速いことに気付いた。


清麻呂がぼくちゃんに走りながら話しかけてきた。

「流星殿、やはり異世界は最高ですな、デゥフ」


清麻呂は汚い汗まみれの顔で満面の笑みをしながらぼくちゃんにグーサインをしている。


必然的に翔太の手を引いているぼくちゃんは清麻呂に遅れをとった。

先を行く清麻呂を恨めしそうにみながら、オークの群れにぼくちゃんと翔太は飲み込まれてしまった。


(もう、ダメか―)

ぼくちゃんは、オークの群れの中、絶望した。


しかし、オークの群れはぼくちゃんと翔太を無視して通りすぎた。


「な、なんで?デュフ」

そして、清麻呂を追いかけ、回した。


「ヒヒッ、そ、そうか、オークは清麻呂のことをメスのオークと勘違いしているんだな」

「なるほど」

ぼくちゃんと翔太は、オークに追いかけられてる清麻呂をただ傍観することしか、出来なかった。


「あっ、捕まった」


さっきまで元気だった清麻呂の体力も尽き、オークの群れに飲み込まれ、姿が見えなくなった。


「ら、らめぇぇぇぇ~デゥフ」

姿は見えないが、衣服をはがれている清麻呂の姿が想像できた。



「捕まってしまったら80%以上の確率でゲームオーバーですね…まぁーここはゲーム世界の話ではないので、あの世行きですがね。ヒヒッ」

翔太はつぶやいている。


オークの群れがどんどんぼくちゃんと翔太を無視して清麻呂がいるであろう場所に集まっている。

清麻呂の喜んでいるような悲鳴はどんどん激しさを増している。


「あ、あ、ぇぇぇぇ~デゥフ」


(気持ち悪いな…)

そう思って改めて清麻呂が犯されているであろうオークの群れの場所をみると

オークの群れだけではない、よく見るとオークではないモンスターも混ざっている。



ぼくちゃんは清麻呂が無事か心配になり勇気を出しオークたちの群れに飛び込んだ。


「まったく、世話のかかる人たちだ」

翔太もそういいながら、ゾンビみたいな走り方でついてきた。


「どこだ、清麻呂!」

オークたちの群れの中、揉みくちゃになりながら、ぼくちゃんは清麻呂を探した。


「痛っ⁉」

突然、腕の痛みを感じ、そこに目をやると犬のようなモンスターが嚙みついていた。

ドーベルマンほどの大きさのそれは、腕を嚙みちぎろうとしている。


犬のようなモンスターは鋭い牙を食い込ませる。ぼくちゃんの左腕は痛みでどうかなりそうだ。


「犬の弱点は鼻だよ ヒヒッ」

翔太の小さなつぶやきが聞こえてきた。


ぼくちゃんは、思いっきり右手で犬のモンスターの鼻を殴った。

「キャイン」


犬のようなモンスターは悲鳴を上げて噛んでいたぼくちゃんの左腕を離した。


ぼくちゃんの腕からは、ドクドクと滝のように血が流れている。

アドレナリンのせいだろうか、不思議と痛みを感じなかった。

血の匂いに誘われて、他の犬の化け物たちがぼくちゃんに向かって、飛び掛かってきた。

(来るなら来い!1匹でも多く道ずれにしてやる―)


『ライトニング・ボルテクス』

どこからともなく、聞こえた少女の声と共に稲妻が走った。


次の瞬間、爆音と衝撃波と共にぼくちゃんは、吹き飛ばされた。

(な、なにが起こったんだ……)


倒れた体を起こす力もなく、渾身の力で頭だけ起こし、目を凝らした。

あたりは、土煙に覆われ、視界は悪いが、そこに誰かの影だけは見えた。


土煙がはれ徐々に視界がよくなり誰がいるか姿がはっきりとした。


「あ、あれは…」

ぼくちゃんは息を飲むほど見とれてしまった。


そこには、きれいな金髪を風になびかせた褐色の肌の美少女が立っていた―








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