第2章 継承~龍の力

南の大地。中央には超巨大な岩が数個ある。互いに支え合い一つの建造物にも見える。そこを拠点に草原を縄張りとしている龍の一族。


ここで今、新たな王が誕生した。


一族の拠点の岩群。その中で一際大きい岩は一族の象徴とされ、ナタルマと名付けられている。その岩前に一族全員が集まり、岩の上に王が立っている。そして、現在の王の言葉に耳を傾けていた。




「え~、今日をもってウェイドジルラーダに王位を継承する。」




新しい王の誕生に自然と歓声が上がる。すると次の王の名を叫びだした。


「ウェーイードッ、ウェーイードッ、ウェーイードッ」


「おう、なんかいってやれ」


「こういうの苦手なんだけどなー」


「適当でいいんだよ。みんなお前の言葉を待ってんだよ。」


にやりと笑うと、背中を押しだした。


すると、歓声は止み、シーンとする。


「今日から王を務めさせて頂くウェイドです。誠心誠意一族の為努力していく所存です。」


「・・・・」




辺りはさらにシーンとする。しかし、後ろのほうでは笑い声も聞こえる。


「ウェイドのやろー、ガチガチじゃねえか」


「ぷぷ、あんなキャラじゃねえだろ」




「これからの、困難に・・ん?」


背中を指で突かれ振り返る。


「おい、そんな畏まるな。もっと、こう勢いに任せるんだよ」


「あー?せっかく考えたのによ。」


「継承式てのはそんな固くなくていいんだよ。これからは、おれについて来いって感じでシンプルでいいんだ。」


「しゃあねえ。」


「言い伝えでこれからなにか危機が起きるやらなんやらあるが、おれが王になり必ず一族を守り抜く。そして、全員で協力し深い絆で結ばれた歴代最高の一族を目指そう」




「・・・・・。うおおおおおおおおおおおおおー」


新しい王の力強い言葉に歓声が沸く。


「ははは、ゼ―ヴィントの奴も頼もしかったが、歴代最高ときたか」


「楽しみじゃの~ホホ」


「おっしゃあああ、祝うぞーー」


皆がありったけの食糧を持ってきて、祝杯を挙げる。


彼らは、王が交代するときには毎回前王と新王両方合わせて祝う習慣がある。常に縄張りを守るために集まることは少なく、このような機会でしか会えない者も少なくなく、この時は警備も一切なく全員が集まり騒いだり、話し込んだりするのであった。




「おーーーい、ウェイドこっちこいよーー」


ブロウが酒を片手に叫んでいる。


「行って来いよ。こんな事次いつできるかわからんぞ」


「ああ。」




ウェイドが仲間の元へ行く姿を見送る前王。そこへ後ろから女性が近づく。


「ついにこの日が来たのね」


「ああ。だが、今日からがスタートだ。」


「そうね。あの子、ならきっと大丈夫」


「ああ」




数日後、祝杯の余韻も引きつつり各々いつもの日常へ戻る。


そして、ウェイドは前王であり実の父親であるゼ―ヴィントに呼び出されていた。


「親父、なんか用か?」




父ゼ―ヴィントは、座りながら遠くを見ている。


「おーい。」


「ウェイド。今日からお前に色々と教えていく。覚悟しといてくれ。」


「ん?なんだよ急に」


「王位を渡したが、まだまだ教えていない事がある。」


「へえ、たとえば?」


「そう焦んなよ」


ゼ―ヴィントが立ち上がりウェイドの顔を見る。


「まずは、戦闘だ。」


「戦闘?」


「ああ。今までは、集団で訓練を受けてたろうが、今日から俺がマンツーマンで叩き込む。」


「ふっ。別にいいけどよ、負けても知らねえぞ。」


「小僧が。まあいい。」


「飯食って、準備できたらここに集合だ。」






戦闘に自信があった。半年前の3つの一族が集まり契りを交わした後からひたすら努力を積んでいたからだ。なので、大人達と混ざろうがすぐに通用するだろうと考えていた。


食事もそこそこにし、戦闘着へと着替え部屋を出た。



同じ場所に行くと既にゼ―ヴィントがストレッチを行っている。




「おっ、来たか」




こちらを見る前に言い振り返る。




「じゃあ、さっそくやるか。かかってきな」




「おう。」




返事と同時に一直線に走り出すウェイド。様子見に軽くジャブを出した。




「・・・・。あれ」




ジャブのあと、いくつか次の攻撃を考えていたが、一瞬で自分の周りが回転しなにが起きたのか理解できなかった。




「起きろ。まだ終わりじゃねえだろ。」




上を見るとゼ―ヴィントが仁王立ちしている。すぐに、起き上がり距離を取り考える。




(なにが起こった。なにかしたのか?)


何も見えなかったぞ。頭が混乱していると




「来ないなら行くぞ」


ゆっくりと動き出すゼ―ヴィン。




(くそ。時間はくれねえか。もう様子見はいらねえ。)


再び真っすぐ駆け。渾身の後ろ回し蹴りをしようとした。


「あれっ」




当たったと思ったら、急にゼ―ヴィントが消え空振ると腰から地面へと落ちる。


腰をさすりながら起き、探そうとすると後ろから声がする。




「おい。」




振り返ると、腕を組み立ち尽くしていた。


「あのなー、そんなあほみたいな攻撃当たるとでも思ってんのか?」


「おれの決め技だからな」


ゼ―ヴィントは大きく溜息をついて喋り出す。


「確かに、捻り・体重の駆け具合文句なしだ。だがな、そんな獣みたいに突っ込むばっかりじゃあ当たるもんも当たらんわ」


「うるせえなあ。おれはこれでやってきたんだよ」


「はああ。それこそ通用するのは餓鬼の喧嘩ぐらいだ」


「ふっ。知らねえのか、狩りの訓練でも獲物相手にかまして捕えたりしてんだぞ」


「可愛いもんだな。」


「なんだと」


「お前が言ってる狩り訓練のことだがな。ありゃあ、ただの練習だ。獲物も成体じゃなくまだまだ未熟な獲物を選んでんだよ。」


「なに」


「ま、知らないのも無理はないがな。そのためにこの訓練をしてるんだからな。」


「・・・・。じゃあ、あんたはどれくらい強いんだよ?」




「どれくらいか・・。自分で確かめな」


ゼ―ヴィントの体が何かが溢れ出す。いや、見えない何かが彼の中心から発せられた。


しばらくすると、風圧が収まり何とか目を開けた。


「なにが起こったんだよ」


「これが、俺たちの本来の姿だ。どうだ?」


「本来の・・。」


ウェイドにとって初めての経験であった。恐怖でもなんでもなくただ近づけない。そして、体が動かせない。辛うじて声を出すことだけができた。


「ああ。龍の力だ。まあ、まだまだこんなもんじゃねえが、とりあえずお前にはこの力を身に着けさせる。」


力を抑えたのか、ゼ―ヴィントからの圧が先ほどより小さくなった。


「おれに・・できんのか?」


「当たり前だ。と、いうよりできなきゃ王位は返上してもたうしかねえな」




「はははっ」


少し顔を引きりつつも笑うウェイド。






こうして、いずれくるであろうその日に向け準備が始まった。

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白獣戦記 @ace12

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