第10話 俺TUYOKUNARUUUUUUU完了! 安定志向!

 二日目。

「頑張るであります!」

「ひいーっ! 死んじゃうであります!」


 三日目。

「頑張るであります!」

「まだ頑張れそうであります!」

「ひいーっ! 死んじゃうであります!」


 四日目。

「頑張るであります!」

「余裕であります!」

「ちょ、ちょっとつらいであります」

「ひいーっ! 死んじゃうであります!」


 五日目。

「頑張るであります!」

「余裕であります!」

「雑魚はおとなしくしていろであります!」

「きょ、今日のところはこれくらいで……」

「ひいーっ! 死んじゃうであります!」


 以上が五日間に渡るグリフォンリースの壮絶な戦いと、勝ち台詞の抜粋だ。

 彼女が一日ごとに一戦多く戦えるようになった結果、見てくれ、これを!


 コタロー

 レベル22

 HP: 155/155

 MP: 71/71 

 力:56 体力:51 技量:55 敏捷:58 魔力:33 精神:41


 グリフォンリース

 レベル24

 HP: 106/106

 MP: 0/0

力:31 体力:29 技量:61 敏捷:82 魔力:11 精神:38


 初期ステータスと比較すると、クソ強くなっただろう!?


 ……なったんだよ!


『ジャイアント・サーガ』は経験値分配方式なので、仲間の数が少なければ少ないほど、経験値がウマくなる。だから仲間をグリフォンリースだけにしたのだ。

 戦闘回数十五回でこのレベルはかなりの高効率!

 ちなみに、アインリッヒ兄貴の場合はこれくらいの強さになる。


 アインリッヒ

 レベル22 17

 HP: 145/166

 MP: 14/14

力:91 体力:78 技量:106 敏捷:114 魔力:18 精神:66


 何だよこのチート兄貴はよお!


 いやいや、本当は俺だってこれに近いくらいの数値にはなるんだ。

 このゲームはキャラの行動がレベルアップ時のステータスに影響するから、グリフォンリースの後ろに隠れていただけの俺は、大した成長ができなかったのである。

 それにしたって俺たちの強さは中盤級だ。もはや序盤に敵はいねえ!


「ひいーっ、死んじゃうであります!」


 という本日のギブアップ宣言を受けて、俺は今人生におけるレベリングを終了させた。

 うん。終わり。これ以上強くなる必要なし。

 この世界で序盤が終わることは永遠にないから、序盤最強ならそれすなわち世界最強。


 さて、肉体的に強くなったあとは、金銭的にも強くならないとな。

 俺はパニシードに目をやる。


 所持金: 一二〇キルト

 アイテム: 二十七個


 彼女に預かってもらっているのはこんな感じ。

 金に関してはどうでもよく、肝心なのはアイテムだ。


〈牛魔の角〉が二十七個。ここまでの戦闘の戦利品だ。

 こいつは一つ一〇〇〇キルトで売れる換金アイテムで、中盤での金策にも重宝される。

 総額二七〇〇〇キルト。序盤でこの貯蓄はほとんどマゾだ。

 早速ソックスハンターに売りつけてやろう!


「おーい、親父ィ。こいつを買い取って――えええええええええ!?」

「む。そなたか」


 ゴフウ、と異形の圧力が俺の顔に吹きつける。


「グランゼニス王……ま、まだいたんすか……」


 あれから結構たってるのに、このバグまだ直らないのかよ!?

 見れば、カウンターの上には「薬草 五キルト ヤスイ!」という手書きのポップがある。地味にまた値下がりしとる……。


「して、何用かな?」


 王様はそう言いつつ、さりげなく手書きポップの位置を直して、安売りをアピールしてくる。


「あ……じゃあ、薬草一つください」

「うむ。機に恵まれたな。今日は特価セールで、何と一つ五キルトである」

「わ、わあい。らっきー」


 俺は五キルトを渡し、薬草を一つ受け取った。


 その大きな手のひらにはあまりにも矮小すぎる五キルトを見て、王は重く目を閉じる。


「妖精の旅人よ。商売というのは難しいものだな」

「は、はあ……」

「安いだけではならず、目立つだけではならず……」


 この手書きポップ、王自ら作ったんすか……。


「勉強になった。おぬしが最初で最後の客だ。ありがとう」


 ぐっ、と手を握られる。

 ちょ、ちょっと……王様若干涙ぐんでるんだけど! 元英雄なんですけどこの人!

 つーか今日まで誰も買ってやらなかったのかよ!


 グランゼニス王は、五キルトを握りしめて城へと帰っていった。

 この出来事から、俺は一体何を学ぶべきなのだろうか……。


「おおい……猫探しの大将よう……。王様は帰ったのかい?」


 道具屋の親父が、店の奥から恐る恐る顔を出した。


「ああ。帰ったよ」

「よかった。数日前にいきなり来て店番をやらせろとか言うから、わたしゃあてっきり王様の頭がおかしくなったのかと、気が気じゃなかったよ」


 俺のバグのせいだとは言えねえ……。


「ところで、親父。こいつを買い取ってほしい」

「お? まさかまたお宝を見つけてきてくれたのか? 色は? 長さは?」

「いきなりソックスに限定するのやめてもらえませんかねえ。パニシード、アイテムを出してくれ」


 いきなり全部出したら店中にとっちらかるので、一本だけ見本を取りだしてもらう。


「……なんだこりゃあ? 見たこともない素材だな」


 まあ、この世界はまだ中盤の魔物というものを知らないからな。


「しかし、わたしの道具屋生活三十五年の勘が、ただならぬものだと感じている。どうにも値がつけられないが、猫の大将、一体いくらで買ってほしいんだ?」

「一つにつき一〇〇〇キルトが妥当だと思う。鍛冶屋やら武具工房に持ち込めば、ぶったまげるはずだぜ」

「一〇〇〇とはちょっと厳しい数字だな。実は店の裏に、素材に詳しいやつがいるんだ。ちょっと見せてきてもいいかね」

「どうぞどうぞ」


 親父がカウンターを離れて、待つこと数分。


「た、た、大将! 買うよ! 一〇〇〇でもんくない」


 血相を変えた親父が、カウンター越しにかぶりついてきた。


「同じものがあと二十六個あるんだけど、どう?」

「買う! 買い取らせてくれ! 二七〇〇〇キルト、すぐ用意する!」


 これで予定通り二七〇〇〇キルトゲット。


 ただこいつは、まだ使い道がない。

 何しろ次の目標金額がでかい。

 ざっと九〇〇〇〇キルト!


 そしてここからは、あるイベントを進行させる必要がある。

 イベント戦闘もあるけど、ま、今の状況で負けることは絶対にない。

 さて、それじゃ世界の時間が止まるまで、ほどよく俺無双させてもらいましょうか。

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