第三十八話 賞金の行方


 直径五十メートル程の発射光から撃ち出された灼熱の直線は、百キロという距離を一瞬で走り抜けて、巨大ジンベイザメの後方から頭までを一瞬で撃ち抜く。

 破壊熱線の先端が僅かに、ワープの入り口へと伸びて、その勢いを見せ付けていた。

 内部を熱で串刺しにされた攻撃艦は、光の直線が消滅すると同時に艦体が風船の如く膨らんで、数舜後に大爆発をする。

 –ッッッドドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンッッ!

 爆発の衝撃と灼熱と、微塵となった巨大戦艦の様々な部位が、火球となって爆散。

 超高速で飛来する灼熱の破壊物体が小判丸にも激突をして、所々がダメージを受けていた。

「うわわっ–」

 猫の姿の中型船が激しく揺れて、コハク以外はシートベルトにしがみ付いて耐え忍ぶ。

 激しい振動が収まると、巨大戦艦の蒸発火球も消えて、ワープゲートも消失していた。

「た、倒したの…?」

 アルトの問いに、端末少女が冷静に答える。

「敵攻撃艦の消滅を確認。捜査の結果、生命体は確認できません。戦闘は、アルト様の勝利で終了いたしました!」

 主の勝利が誇らしい様子のコハクの声が、弾んでいた。

「良かった…ふぅ…」

 船もみんなも、ボロボロだ。

「みんな、お疲れ様。コハク、本体は大丈夫?」

「はい! エンジンの修理に時間はかかりますが、手近な惑星やステーションへ向かう分には、全く支障はありません。えへへ…」

 主が本体を心配してくれたのが嬉しいらしい、爆発コントみたいな姿のコハク。

「某も、あれだけ悪党どもを斬り伏せて、お腹いっぱいで候…」

 人斬り欲求が満たされたらしく、巫女服がアチコチ穴を開けられているツバキも、心の底から幸せそうだ。

「私も、全力で戦えて 楽しかったぞ!」

 セーラー服が危険な程にボロボロなクーラも、まだ高揚感が残っているらしいけれど、力と力の闘いに満足したようだ。

 船体もダメージがあるし、アルトもコハクもツバキもクーラも、みんなボロボロ。

「とりあえず…何処かのコロニーなりに寄って、少し気分を休めないとね…」

「では、当初の予定通り ピリンカ太陽系へ向かうといたしまして、その前に一度、オールトのステーションへ寄港いたしましょう」

 オールト・ステーションとは、アース太陽系を球状に包んでいる、広大な膜のような空間「オールトの海」に建造された、宇宙ステーションである。

 オールトの海には何かの壁がある。

 というワケではなく、塵やガスなどの微小な物質が漂って膜状に集まって、アース太陽系を包んでいるのだ。

 特に領海の際というワケでもないけれど、アース系の人類にとって外宇宙航行をする際の、故郷への別れと帰還の通過点として、認識をされていた。

「そこだと、船の修理とか買い物とか、出来るの?」

「はい。外宇宙へと旅立つ冒険者にとって、重要な拠点ですので。物価は少々割高ですが、品揃えはピリンカよりも大変に豊かです」

「うむ。私も、セーラー服やマントを新調したいからな。丁度良い」

「某も、巫女服や鋼鉄を追加したかったところです」

「なるほど。じゃあ、まずはそこ…オールト・ステーションへ向かおう!」

「了解しました!」

 ネコ型航宙船は進路を定めて、宇宙ステーションを目指した。


 到着までの航行中に、アルトはブリッジで、ちょっと気になっていた事を尋ねる。

「コハクが巨大戦艦に使った破壊兵器ってさ、たしか 恒星系破壊兵器じゃなくて、惑星破壊兵器って 言ってたよね?」

「はい。あのサイズの構造体を破壊するには、恒星系破壊兵器では出力最小でも数光年先の惑星などまで 巻き添えにしてしまいますので♪」

 と、スペックが誇らしい様子の女中ロイドだ。

 質問は、まだある。

「えっと…シッシ・カバブーの宇宙戦艦を撃破した時、出力二十パーセントって、言ってたでしょ? 百%だと、まさに惑星も破壊出来るって事?」

「そうですねー。答と致しましては、正解でもありますが正解でもあります。という処でしようか」

「どういう事?」

「簡単にご説明を致しますとですねー」

 先の戦闘でコハクが使用した惑星破壊兵器は、緊急事態として特別に生成した、最も短時間で完成させられる簡易攻撃兵器らしい。

「急ぎでの完成というご命令でしたので、敵艦に向けたままでの生成で、破壊の一撃のみの使い捨て仕様でして。あのタイプでの惑星破壊兵器は、地球よりも小さな惑星であれば。たしかに破壊可能ではありますねー」

 地峡よりも大きな物体を破壊するには、もっと大きな惑星破壊兵器でなければ、できないらしい。

 なので、アルトの問いは正解でもあり不正解でもあるのだ。

 女中少女との会話で、フと考える。

「…って事は、本来の恒星破壊兵器は、もっと凄いの?」

 主の問いに、少女は恥ずかしそうに答えた。

「はい…えへへ~。そもそもですが、恒星系破壊兵器として生成すれば、本体はあの数万倍~数億倍以上に大きくなりますし、出力もアース太陽系の太陽くらいでしたら余裕で爆散可能です。それに~」

「?」

 恥ずかしそうにモジモジしている。

「コハクはその~、本来は恒星系破壊兵器ですので~。本来の性能どおりに破壊兵器を生成いたしますと~、時間はかかりますが~、現在観測されている宇宙最大の太陽も、破壊可能なのです~。えへへ~♪」

「そ、そうなんだ…」

 宇宙に拡がる人類として考えると、結構な破壊神という気もする。

 あらためて、ブリッジのメンバーをチラと見て。

 接近戦最強の人斬り侍と、銀河系最強のスーパーガールと、恒星系破壊兵器。

「…怒らせない方が良い気がする…」

「「「?」」」

 心からそう思うアルトだった。


 オールト・ステーションに到着をして、小判丸を接岸させる。

 まずは、宇宙魔王の八幹部の一人であるシッシ・カバブーを討った懸賞金を貰いに、ギルドへと脚を延ばした。

「魔王の幹部の一人でしょ? 報酬、どれだけ貰えるのかな?」

 あえて調べず、ちょっとワクワクしているアルト。

 懸賞金を獲得するには、討った相手の遺品なり生態パーツなりの、本人確認が出来る証拠物件が必要になる。

 とはいえ、今回のような戦闘もよくある事態なので、映像での証拠提出も認められているのだ。

 コハクに、少女自身と宇宙船本体の戦闘記録がされているので、それらを提出しようと考えている。

「着いた!」

 ギルドに到着をすると、何やらザワザワと、賞金稼ぎたちが噂をしている。

「? なんだろう」

 クーラが超人類の聞き耳を立てて、聞いた話によると。

「うむ…どうやら、シッシ・カバブーが倒されたと、既に話題となっているようだな」

「へぇ…♪」

 宇宙の魔王の幹部を倒したアルトなのだから、コロニー落としなどという不名誉な仇名など、一発で解消される事だろう。

 と、ワクワクしながら受付へと向かったら。

「あの~、シッシ・カバブーの件なんですれれど~」

 受付のお姉さんが驚くと思ったら、予想外に気遣ってくれる。

「はい。ああ、もしや、シッシ・カバブーを討った人物を、ご存じなのですか?」

「え…?」

 お姉さんの訊き方が、ワクワクではなく、明らかに焦っている感じ。

 アルトだけでなく、ツバキもクーラも、不穏な空気を感じ取っていた。

 ツバキが、一歩前へと出る。

「その情報に関して、何か動きがあったのですか?」

 後の展開も読んでの質問だ。

 お姉さんは、特に怪しむ風も無く、教えてくれた。

「はい。実は…シッシ・カバブーの巨大戦艦が轟沈された影響と思われる重大事故が、起こりまして…」

「「「「重大事故?」」」」

 ワープを始めていた巨大戦艦を破壊したと思われる強力な破壊のエネルギーの先端が、ワープゲートを抜けて、ワープ先の惑星表面を直撃していたらしい。

「大陸が一つ崩壊しました…。それで現在、銀河警察でも、シッシ・カバブーを討った者を捜索している最中でして…。捜査協力の為に、ギルドでも情報収集をしているところなのです。それで、情報料を目当てに いい加減な情報を持ってくる者もおりまして。ですので、そのような不遜な輩は、銀河警察に通報している次第です」

「そ、そうなんですか…」

 アルトの浮かれっぷりが、お姉さんはニセ情報を持ってきた小銭稼ぎのように見えたのだろう。

(つまり…あのまま報告をしていたら、僕は銀河警察に連れて行かれて…)

 惑星被災の張本人としてだけではなく、遺伝子法違反で極刑。

(あ、危なかった…っ!)

 お姉さんの忠告に感謝である。

「ああ、もしかして 別件ですか?」

 と、自分の早とちりを疑うお姉さんが、訊ねてくる。

「えっあ、ぃやそのっ–ぼぼ僕もっ、噂話を聞いてっ、賞金稼ぎとしてっ、興味があってっ! あはははは」

 ギルドから退散するしかなかったアルトたちだった。


                   ~第三十八話 終わり~

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