第三十七話 惑星破壊兵器のちょっと


「そ、それよりコハクっ、みんなの方はっ?」

 鬱陶しい防衛システムに邪魔をされて鬱陶しがっていた、ツバキとクーラへの、援護の件である。

「はい。ご命令通り、この艦の防衛システムを掌握し、無効化させました」

 二人に対するモニターが表示されると、ツバキは逃げ回る悪党どもを追いかけて斬り捨て、今、最後の一人を真っ二つにしたところ。

 クーラはボロボロで色々とアブない半壊セーラー服姿ながら、勝利のカチドキを上げているところだった。

「良かった…。それじゃあ、あ…この艦、どうしよ–」

 と思った瞬間、大型戦闘艦に後方からの振動が走り、全てのモニターで、赤くアラートが表示される。

「どっ、どうしたんだっ!?」

 慌てるアルトに、コハクが冷静な分析を告げた。

「ドン・マーズの時と、同じようです」

「ドン・マーズ?」

 自分が死んだらコロニーを落下させて敵もろとも道連れにしようとした、あの自爆行為の事らしい。

「こ、この巨大戦艦が、ドコかに落下するのっ!?」

 女中ロイドの分析によると。

「あと十分ほどで、ワープ航法に入るようです。ランダムで設定されたワープアウトポイントには、確かにそこそこ、大きな規模の惑星が存在しております」

「マジでですかっ!?」

「事実です」

 フロントモニターから見える、後ろへと流れる宇宙が、少しずつ加速しているのが解る。

「ワ、ワープの準備…?」

「はい。このサイズの巨大宇宙船ですと、ある程度の加速をしてからでなければ、ワープが出来ませんので」

「コ、コハクがこの戦艦のシステムを完全に掌握したらっ、止められるっ?」

 慌てる主の問いに、コハクは冷静な返答をする。

「無理でございます。この暴走は、航行システムとは独立して設定されている、いわゆる『仕返しシステム』と言える、大変性格の悪い仕組みでございますので」

 つまり、この暴走を止めるには、この巨大戦艦の隅々までを探し回って、暴走させているシステムと回線そのものを処理しなければならないのだ。

 時間的にも、絶対に無理だ。

「なんでなのさあああっ! 悪党って、なんでそういつもいつもっ、メンツばっかり気にしてえええっ!」

 落ち着いて話すコハクの報告に、アルトは焦りながらも、これからの手順を考えた。

 ブリッジの扉を走り抜けながら、女中少女への命令と質問。

「と、取り敢えず、ツバキとクーラを回収しながら急いで脱出っ! で、コハクが用意している恒星系破壊兵器って、いつ出来るの?」

「はい。あと八分ほどで、実働可能です」

 いわれて、腕時計を確認する。

「この船がワープするのと、ギリギリかっ!」

 ビークルに飛び乗って、アルトの運転で急発進をする。

 女中ロイドには、その僅かな分の労力さえも、恒星系破壊兵器の完成に傾けて欲しいという、アルトなりの考えだ。

「とにかく、コハクは一秒でも早く、破壊兵器を完成させてくれっ!」

「了解いたしました」

 狭い通路を、中型航宙船小判丸を目指して走る。

 と、すぐにクーラを発見できた。

 金髪セーラー赤マントのマスク少女は、力と力の勝負に勝利した事が嬉しくて、一人で興奮してまだカチドキを上げている。

「見たかああっ! 私はバナブル人に勝利したぞおおおっ! やっぱり銀河最強の種族は私たちっ、プリクトン人なのだあああああっ!」

 ビークルで接近をしながら、クーラに声を掛けたアルト。

「クーラっ、急いで脱出だっ!」

「おお、アルトっ!」

 少年たちに気づいたクーラが、凄い速さでビークルの後部座席へと飛び乗って、頬を染めて高揚しながら、興奮気味に告げてくる。

「アルトっ、私はバナブル人に勝利したぞっ! 銀河最強のお嫁さんを持った気分はどうだっ? 嬉しいだろうっ!」

 運転席の少年へ美顔をグっと近づけられると、半壊しているセーラー服の胸が目の前にまで接近をして、先端部分が覗けそうになったり。

「わっわっ、解ったから、今は運転中ですのでっ!」

「あはは。そんなに照れて、アルトは愛らしいな♡」

 とか、勘違いをして喜んでいる最強少女だ。

 暫し走ると、今度は悪党どもの死体の山へと、辿り着く。

「ツバキはっ?」

 肉山の頂上で、巫女服もボロボロで仰向けに転がっている、ツバキを見た。

「ツ、ツバキ…まさか…っ!?」

 すわ相打ち。

 と思ったら。

「ふ…ふひひひひ…血いぃぃ…」

 人斬り欲求が満たされて、惚けている様子だった。

「よ、良かった…おぅい、ツバキっ!」

 ビークルから呼びかけたら、狂った目で惚けていたツバキは、悪党どもの残骸山から転げ落ちながら、アルトに向かって刀を抜いてきた。

「まだいましたかぁ…ふひひひひぃっ!」

「うわあっ!」

 アルトの反射神経と、人斬り欲求が満たされて惚けていたおかげで、斬られたのはビークルの背もたれだけで済む。

 転がって来た侍巫女は、勢い余ってビークルの後部座席へと転がり落ちた。

「しっかりしてツバキっ! 急いで脱出するからっ!」

「だっひゅひゅれふか…ひょーひひまひたぁ、ぁると…はへ~?」

「人斬り満足してる場合かっ!」

 思わず突っ込んだアルトは再びビークルを急発進させて、切り捨てられた悪党どもの亡骸の山を乗り越えて、倉庫への通路をひた走る。

 巨大戦艦の中は、戦闘員ではない航行要員たちが逃げ惑い、次々と脱出ポッドへ飛び込んで、ポッドが射出されていた。

「ぼ、僕たちの宇宙船、大丈夫かなっ?」

「ロックし防犯迎撃を掛けてありますので。あ、到着です」

 航宙船の周りには、この船を奪って脱出しようとして迎撃された悪党構成員たちの、破壊光線で破壊された残骸がたくさん転がっている。

 主の言葉をちゃんと聞いていたコハクが、防犯とロックを解除すると、カーゴルームへの扉が開いて、無事に全員搭乗。

「ブリッジへ!」

 アルトがまだ惚けているツバキを背負って、みんなでブリッジへと駆け上がる。

「小判丸、脱出いたします」

 頭モシャモシャなコハクが告げると、宇宙船全体がガクんと揺れて。巨大戦艦から脱出をして、急速に距離を取った。

「巨大戦艦はっ?」

「ワープ突入、五十五秒前です」

 敵戦艦の前方には、ワープ航法の出発点でもある、光の壁が完成しつつある。

「コハクの破壊兵器はっ?」

「あと五十三秒で使用可能です」

「ま、間に合ってくれぇ…っ!」

 もしワープされてしまったら、どこかの惑星に重なるようにワープアウトをして、きっと惑星そのものが原子融合爆発により、崩壊&消滅をしてしまうだろう。

 コロニー落としのアルトから、惑星破壊のアルトとかに、嬉しくないジョブチェンジも勘弁だけど。

「破壊できないと…惑星規模で、無関係な人たちが死ぬ…っ!」

 それだけは、なんとしても避けたかった。

 巨大戦艦の前方が更に明るく輝いて、ワープ航法が始まる。

「あわわっ、コハクっ!」

「完成しました。実働可能です」

 女中ロイドが宣言をするも、宇宙空間には何もなし。

「どっどこっ? 破壊兵器は–あっ!」

 フロントモニターの端。

 巨大戦艦の後方。

 何もない宇宙の暗闇から染み出るように、それは姿を現した。

 ジンベイザメの後方百キロの宇宙空間で、敵戦闘艦へと向けられている、まるで巨大な口紅の如き構造体。

 銀色と黒がコントラストを描いて艶めく無機質な本体は、全長が五百メートルほどの大きさで、各所で危険を想像させる赤色な発光を見せていた。

 口紅が伸ばされるように、砲身らしき赤い筒が伸ばされると、赤い光の粒子が、チリチリと放出を始める。

 主の希望を理解している女中ロイドが、強く確認。

「エネルギー収束率二十パーセント。対象物破壊達成率百パーセント算出!」

 この、暗黒物質で生成された破壊兵器は、出力二十パーセントで、全長三キロ強の巨大戦艦を破壊できるらしい。

「アルト様、発射をいたしますか?」

 最終確認を取る、真面目で従順な女中ロイドだ。

「う、うんっ! 破壊してっ!」

「了解しました。惑星破壊砲『阿吽(あうん)』、発射!」

 豪胆な感じの名前な惑星破壊兵器が、眩い閃光を見せる。

 巨大戦艦の先端部分が、光の壁へと突入をして、ついにワープが始まる。

 銀色な巨大口紅の赤い砲身から、灼熱を遥かに超える真っ赤な何かが、撃ち放たれた。

 –っっどおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!


                      ~第三十七話 終わり~

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