第三十三話 乱戦突破
「エンジンの自動応急修理を待つ間でも、あの戦闘艦から逃走できる可能性は0パーセントと演算できます」
冷静な未来予測に、アルトは生き残る方法を考える。
「…みんな、一つだけ聞くよ。まずはコハク、この船は恒星系破壊兵器という話だけど、あの戦艦は撃退できるの?」
「はい。二十分ほど戴ければ、確実にです」
納得をするアルト。
「次に、ツバキとクーラ。あの戦艦に乗り込んで、たぶん、凄い大人数で襲ってくる敵たちを、凌げる?」
少年の質問に、侍巫女もセーラー美少女も、強い意思の笑顔で応える。
「ふ…誰に聞いているのですか?」
「まったくだ。私の実力を、今度こそ見せてやるぞ!」
今の会話で、アルトが何をしようとしているのか、三人には伝わっていた。
「アルト様。上陸用ですが、ビークルが一台、搭載してあります」
「良し! どうせ逃げきれないし、この船の通常攻撃力であの巨大戦艦は撃墜できないなら、中に入ってひっかき回して、コハクの恒星系破壊兵器が準備できるまで暴れてやろう!」
「了解しました!」
「心得申した!」
「ああ、やってやろう!」
四人は、前部のカーゴスペースへと走り出した。
走りながら、アルトは考える。
「巨大宇宙船の中…戦闘員の人数で言えば、ドン・マーズの比じゃあないよね」
何と言っても、幹部クラスの乗っている巨大戦闘艦だ。
「コハク、何て言うか…敵集団を足止め出来るような、そんな武器ってない?」
走りながら、女中ロイドが応える。
「足止めですと…オーロラカーテンや、ネバネバジェル弾などかありますが」
どちらも防御用の兵器らしい。
「もっとこう、威嚇にもなるような…そうそう、火炎放射器みたいな!」
主の提案に、コハクは珍しく「?」フェイスだ。
「カエンホウシャキ、で御座いますか…? ああ、これですか。随分とオールドな仕組みなのですね」
ビームガンが携帯できる現代において、フレイムスロウワーは、既に廃棄されて久しい兵器っぽい。
どうやらコハクも、船体メモリーの中の兵器一覧から、初めて知ったようだ。
「現在の本艦には積み込まれておりませんが、緊急工作室で、すぐに制作が可能です。種類は一機種のみで、燃料はカートリッジ式となってしまいますが」
「よし! とりあえず、すぐに作って!」
「あのイカれ連中をっ、宇宙の塵に変えてやるんだっ! 撃て撃てぇっ! ビギイイイィィィッ!」
巨大戦艦のブリッジでは、船長であり組織の幹部でもあるシッ・カバブーが、イノシシ顔を更に獣性剥き出しにして、アルトちの船を全力攻撃していた。
コハクが操作する猫型の航宙船は、無数のビームやミサイルを素早い旋回でかわしながらも、よけきれない数発の攻撃でダメージが蓄積されてゆく。
「うわっ、また喰らったっ!」
カーゴスペースで上陸用の四輪ビークルへと乗り込んだアルトたちが、船を揺らす激しい振動に、肩をすくめる。
アルトはライフルや小型バズーカではなく、コハクが制作してくれたカートリッジ式の火炎放射器を、オートで届けられたカーゴルームにて装備していた。
「コハクっ、大丈夫かっ!?」
女中ロイドの本体は船であり、コハクはあくまでコミュニケーション用の端末である。
船体へのダメージが、少女にも伝わっている筈だ。
「大丈夫です。激しい攻撃ですが、決定打だけは絶対に避けてみせます」
言いながら、カーゴドアの上部モニターに表示している船外の様子で、状況を説明してくれた。
「現在、敵戦闘艦の下面を進行中です。搬入ハッチと推察できる外装を破壊した後、そこから敵艦内へと 突入をします」
見ると、ジンベイザメの肛門あたりに、ターゲットが絞られている。
「破壊光線 発射!」
コハクの号令で、猫の目から眩い全力の破壊光線が発射されて、ジンベイザメの肛門が直撃をされて爆発。
ダメージとパワー全開の破壊光線により、猫の目からも涙のような残光が流れているものの、敵戦艦のハッチは大きく破壊されて、小判丸が内部へと突撃を敢行する。
「入ります!」
ハッチの残骸を破りながら、ジンベイザメの体内へと、猫型航宙船が突撃をして停船。
「うわあっ、突入してきやがったぞうっ!」
「み、皆殺しにしろぉっ!」
宇宙船本体への突撃は想定外だったらしく、敵の戦闘員たちが慌てて、どこからともなく迎撃に出てくる。
前脚の爪でネコ型航宙船を固定すると、胸のハッチが開いて、四輪ビークルが急速発進をした。
コハクが操縦をして、助手席にはアルト。
後部座席には、ツバキとクーラが乗り込んでいる。
コハクの袖が、アルトの全身マントが、ツバキの巫女袖が、クーラの赤いケープが、艦内の空気で激しく靡いた。
「艦内珍走団だぁっ!」
「うわわっ、コッチ来るなぁっ!」
暴走車に驚かされたものの、悪の戦闘員たちはすぐに状況を把握して、遠巻きのビームマシンガンで侵入者の撃破を狙う。
更に、侵入者迎撃用の小型防衛ビーム砲なども多数に展開をして、攻撃してきた。
「コハクっ、目的はブリッジだっ! 時間はあるっ?」
「はい」
四輪ビークルの前方にビームシールドを展開しながら、暴走車は迎撃部隊を突破して、グングンと奥へ侵入してゆく。
車に対する正面攻撃はビームシールドで防ぎ、アルトが火炎放射器で、まずは後方からの戦闘員たちを倒してゆく。
「ひえっ!」
「火だあっ!」
ビームではない攻撃に、戦闘員たちは驚いて一瞬パニックだ。
更に、艦内の消火器が作動して火が消えても、現代では生成されない燃料のお陰で、残った燃料は消火剤にも化学反応をしない。
おかげで、通路に残った油成分な燃料で滑って転んで、戦闘員たちは侵入者を追って来れなくなっていた。
「予想以上だ!」
クーラもビークルから飛び出して飛行しながら、怪力で艦内の迎撃用ビーム砲を破壊する。
ツバキは、正面以外からのビーム攻撃を、素早い抜刀で斬り散らして防御していた。
前方の戦闘員は、ビームシールドを張ったコハクのビークルで、適当に蹴散らされてゆく。
「後ろは任せて!」
周囲からの敵戦闘員たちを撃退しながら、アルトが空になった火炎放射器のカートリッジを交換しつつ、ビークルはブリッジに直通しているらしい通路へと出た。
一旦停車して、艦内をハッキングしていた女中ロイドが、ブリッジ入り口までの通路を確認。
「このまま真っ直ぐに行けば、ブリッジのゲートに辿り着けます」
コハクの破壊兵器でこの戦艦を撃破する予定だけど、それまでの時間稼ぎの間に、シッシ・カバブーを討てれば尚良しである。
「よしっ、突撃するっ!」
「了解しました」
再びビークルを発進させると、途中で通路の幅いっぱいなゲートが、ドンンッと閉じられた。
「うわっ!」
「止まります」
急停車をしたビークルに、後ろから戦闘員たちが追い縋ってくる。
「まずいなっ! このままじゃあ、追い詰められるっ!」
遠距離からのビーム砲の雨あられで、コハクはアルトたちをビームシールドでガードするのが精いっぱいだ。
「私がゲートを開ける!」
飛んできたクーラが、ゲートの下側を掴んで、力を込めて持ち上げる。
「うむむむ…っ、この程度おおおっ!」
超人類でもやすやすと持ち上げられないらしいゲートは、油圧などのパワーを全開にしながら、必死の抵抗を見せる。
しかしクーラの怪力によって、まるでスローモーションの映像の如く、鋼鉄のゲートが歪み、油圧ジャッキが曲げられて、金属の悲鳴を上げながらゲートが破壊されていった。
数分と待たず、分厚い大型ゲートが歪められて、ビークル一台が通れる程の隙間が開けられる。
「アルトっ、行けるぞっ!」
「よしっ!」
ビートルが発車しようとした時、ツバキが車を飛び降りて、追いすがる戦闘員たちへと突撃を決意。
「ツバキっ!」
振り向くアルトに、侍巫女は微笑む。
「アルト、この狭い通路では、連中のビームでビークルが破壊されるのも、時間の問題でしょう。ここは某が、押さえて見せます!
「でもっ–ええ、あの…」
というフラグを心配したら、ツバキは既に人斬りモードで、暗く笑っていた。
「心配ご無用。某は一人で宇宙を渡り歩く、侍です! と言うか、早く消えないとアルトと言えどふひひひひっ!」
「し、死なないでね…」
人斬りの笑顔に背筋も凍るアルトは、ツバキの奮戦を祈る事しか出来なかった。
発車の後方では、悪党どもを相手に殺戮ショーが開始される。
「ブリッジまで、あと三十メートルです」
「こうなったら、早く片付けよう!」
ブリッジのドアが見えて来た時、天井から巨大な物体が飛び降りてきて、通路を塞いだ。
「今度はなんだっ!?」
目の前に下りて来たのは、身長が三メートルを超える、異様にマッチョな赤いゴリラの如き大男だった。
大男は、肩に担いだ巨大な特殊鉄鋼の柱を振り回し、怪力自慢だと言わんばかりに鉄柱をグニヤリと捻じ曲げる。
「むっふうぅ~ん。オレ様はぁっ、シッシ・カバブー様の親衛隊長ぉっ、ハルキー様っだああああっ!」
名乗りながら、自身の上体を超える鉄柱の塊を、左右に引っ張って引き千切ったり。
「こ、こいつっ!」
全身の筋肉を盛り上げる巨人に、アルトの銃撃も無効化される。
「強いっ!」
「むっふっふうぅ~んっ!」
自慢の防御力にも驚かれて、得意げに笑う、筋肉のハルキー。
巨人を相手に、クーラは美しく笑いながら、ビークルの傍らへと降りた。
「アルト、こいつの相手は 私に任せろ!」
「クーラ!」
また死亡フラグみたいな言葉を聞かされる。
「この男は、バナブル人だ。我らプリクトン人と、どちらが強いのか…よく宇宙のネタとして語られていてな」
まるでネット世界だ。
「ここで会ったが百年目。バナブル人のハルキー! この私、プリクトン人のクケント・クーラが、相手になってやるぞっ!」
ビシっと指さしで挑戦をされた筋肉男は、相手を知って、喜びに破顔する。
「ぉおおおっ! プリクトン人が相手ならぁっ、容赦なしぃっ! むっふふぅぅうんんっ!」
「アルト、行けっ!」
「クーラっ、無茶はするなよっ!」
走るビークルから、そう伝えるのが精いっぱいだった。
そんな、男子としては心情的に結構キツい状況だけど。
「行くぞぉっ、プリクトン人んんんっ!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
力と力、拳と拳がぶつかり合う、超肉弾戦が始まった。
アルトの心配をヨソに、むしろ全力で戦える事が嬉しい感じのクーラである。
「…みんな凄いなぁ…」
ビークルはブリッジの扉へと到着をした。
~第三十三話 終わり~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます