第二十七話 立ちはだかる者


 土星の衛星へと降りたクーラは、しかし人探しに翻弄されていた。

「しまった…よく考えてみれば、私はアルト一味の顔を 知らぬではないか!」

 映像で確認をしたのは後ろ姿だけだったし、服装という意味では、多種多様な宇宙人たちが出入りをしているギルドに於いて、アルトたちはそれほど目立つ格好でもない。

「とにかく、アルト一味の顔を知っている賞金稼ぎは いるだろう!」

 そう考えたクーラは、ギルドへと足を向けて、ギルドの方から歩いて来る人たちに訊ねてみる事にした。

 六組ほどの人たちに訊ねてみるも、みな一般人だったり。

「し、失礼しました」

 そんな失敗をしていたら、新たに三人のグループが歩いて来る。

 今度は、よく観察してから考えた。

「ふむ…身なりからすると、賞金稼ぎのようだぞ」

 三人組の真ん中を歩くマント姿な少年の腰には、ガンベルトがチラと見える。

 運良く関係者に出会えたと、内心で喜ぶ金髪ポニテのセーラー少女は、上機嫌なままに真面目に、声を掛けた。

「すまない。私はプリクトン人のクケント・クーラという、重犯罪者捕獲人です。実は、人を探しているのですが…」

「む…」

 少女の自己紹介に、侍巫女がピクっと反応。

「ん? あーはいはい、何ですか?」

 チームリーダーらしき少年というか、尋ねられたアルトが応える。

「この辺りで、悪名高き一味を探しておりまして」

「ああ、つまり賞金首を探している、と」

「はい。私はその一味を追っているのですが…恥ずかしいお話ですが、私はその一味について、名前は知っていても 顔を見た事がなくて…」

「なるほど、それは難儀でしょう。よろしければ、一緒に探しますよ」

「おお、それは助かります!」

 パっと笑顔のクーラは、マスク越しでも美しいと、アルトはつい見惚れてしまう。

「あ…で、そ、その極悪な一味の、名前は?」

「はい。あなた方もご存じと思いますが、コロニー落としのアルトという、それはそれは悪党極まりない一味です」

「ほほう、コロニー落としとは、また悪い連中–っえっ!?」

 アルトが驚き、コハクがキョトン顔で、ツバキが鋭い眼光になる。

 軽く青ざめた少年の反応を見て、クーラは喜んだ。

「おお、どうやらご存じの様子! 居場所をご存じならば、ぜひ教えて戴きたい!」

「ぇえっとぉ…その、ァアルトたちを見つけて…どう、するんですか…?」

 外見はスレンダーなマント少女だけど、いわゆる金稼ぎをしている以上、見た目で判断をするのは、絶対に危険だ。

 怯えつつ訊ねる少年に、クーラは、輝く正義の意思で応えた。

「いかなる理由があろうとも、コロニー落としなどという大量虐殺は極刑に値します! 私は、大犯罪人のアルト一味を捕らえ、銀河警察に突き出すつもりです!」

「アルト一味…」

 つまり三人全員、銀河警察に引き渡される。

 という話だ。

 ツバキは、金髪セーラー賞金稼ぎを、敵と認定した。

「さあ、アルト一味の居場所を教えてはくれまいか! 賞金は全額、あなたたちへお渡ししても良い!」

 欲の無い正義の少女の、嘘の無い輝く正義の圧迫感に、賞金首の少年は命の危機を感じて震える。

「ぇえっと…あ、ア、アルト一味は…」

「うむ!」

 どうやって誤魔化そうかと必死に思考をしていると、侍巫女が割って入った。

「あなたが探しているアルトとは、この少年の事です」

「何っ!?」

「はいこの僕…えええっ、ちょっとツバキさんっ!?」

 突然の裏切り行為に、焦るアルト。

「あら~、バレちやいましたね~」

「むむっ!」

 後ろで控える女中少女も、うっかり正体をバラしてしまう。

 二人の少女の言葉と少年の青ざめた顔に、セーラー金髪ポニテ少女は、確信を得たらしい。

「そうか…貴様が大悪人、コロニー落としのアルトだったのか! 危うく騙されるところだったぞ! なんと狡猾な男めっ!」

「いやあのっ–っていうかツバキっ、なんでバラすのっ!?」

 泣きたいアルトに対して、ツバキは一歩前へと出て少年の盾となりつつ、冷静に応える。

「このクーラという賞金稼ぎは、私たち全員をターゲットにしています。私は侍として、命を狙う挑戦者から遁走する事も、またそのような相手を見逃す事も、絶対に致しませぬ!」

 キリっと格好良い感じに言っているけれど、逃げられるものなら逃げるべきだと思うアルトの意思は無視。

 強く輝く裂帛の眼差しで見上げる小柄な侍少女を、金髪セーラー少女も、真剣に見つめ返した。

「なるほど…貴様もアルト一味なら、確かにこの私にとって、捕らえるべき犯罪者だ。良いだろう。三人纏めて、私がひっ捕らえてくれようぞっ!」

 クーラの瞳が、正義の意思で赤く輝く。

「ちょっ、ちょっと待ってっ! ク、クーラだっけ? どれだけ腕に自信があるのか知らないけどさっ、こっちは三人いるし、あなたは素手だしっ! このまま戦うとかっ、ちょっとやめた方がっ、良いんじゃないですかっ!?」

 勝負になるならない、とかもだけど、ツバキとコハクとクーラという、女の子同士の血みどろな戦いとか、絶対にご遠慮したい少年心理だ。

 主の懇願に、召使いであるコハクも援護射撃。

「そうですよ クーラ様。そもそも、アルト様にどのような恨みがあると?」

「ぶふっ!」

 女中少女の真面目な問いに、クーラは思わず吹き出してしまう。

「ア、アルトにあるとってっ–うくくくく…っ!」

 後ろを向いて、必死に笑いを堪えている金髪少女だ。

「く…背後を見せている相手を、斬るわけにはゆきません…っ!」

 と真剣に悩んでいるツバキ。

「と、とにかくっ、僕がコロニーを落としたのはっ、あのっ、好きで落としたワケじゃなくって–」

 説明をしようと焦る少年に、笑いを堪えたクーラの瞳が、冷たく光る。

「…ほほぅ。女を盾にする卑怯者だと思ってはいたが、今度は命惜しさに言い訳か。貴様は見下げ果てた卑怯者だ!」

「えぇ~…」

 ビシっと指をさして看破するクーラに、ツバキも思う。

「アルト、無駄です。このクーラという賞金稼ぎは、アルトの話など聞く気も無いと–」

「ぅぶふぅっ!」

 ツバキの真剣な言葉に、クーラはまた、後ろを向いて笑いを堪える。

「アルトもないととかっ–どれだけなんだっ!」

 小刻みに震えて笑いを堪えるセーラー少女は、戦う気があるのか無いのか。

「と、とにかくさ、一旦…そうだ、どこかで仲良くお茶でも飲みながら語り合えば、きっと誤解も解けて–」

 そつのない和平交渉のセリフに、また金髪少女が冷静になる。

「…いかにも、小悪党が言いそうな騙しの文句だな。つくづく見下げ果てた男よ、コロニー落としのアルトっ!」

 再びビシっと指をさす正義の美顔は、まだ笑いを堪えている感じを隠せていなかった。

 リーダーの提案は、抜刀少女とセーラー少女によって却下される。

「アルト、交渉は無駄です。この賞金稼ぎは、話し合うより実力で解らせるしか、手がありません! っていうか、私は一度、プリクトン人とっ、手合わせをしてみたかったのですっっ!」

「…え?」

 正義感や使命感よりも、剣戟の魂に正直らしい、抜刀少女のツバキ。

「ぷりくとん人…?」

 この身体の記憶を探っても、染み出してこない。

 少年の疑問に、女中少女が答える。

「はい。こちらの賞金稼ぎの少女、クーラ様は、宇宙最強生命体の一種である、プリクトン人に間違いないでしょう。プリクトン人は、絶対的に少数なのですが、それだけの理由があると思われる程、特殊で最強の生命体と認識をされております」

 コハクの説明に、クーラは誇らし気に美顔を微笑ませた。

 女中ロイドは説明を続ける。

「最強と言うのは、例えば太陽の中心に飛び込んでも無傷でしたり、実弾やレーザーなど全ての攻撃を受け付けない肉体、更には光速に近い飛行能力や超大型宇宙船すら抑え込む怪力や、宇宙空間でも難なく生きられる特殊性など、全てに於いて 生命体として規格外な存在なのです」

「ふふ…」

 最強の逸話を並べられて、少し照れくさそうだけど誇らしげでもあるクーラだ。

「そ、そんなチートな生命体…マジですか?」

「ええ、アルト 真実です」

「ほんと…ひえっ!」

 応えた侍少女の目は、すでに戦闘モードというか、試し斬りがしたそうな、発狂モードとも言えた。

「ああああのツバキさん…?」

「アルトっ、もはやこの賞金稼ぎとはっ、話し合いの余地など皆無ぅっ! 早く闘いっ–ぃいえっ、早く斬らせて下さいいいぃっ!」

 ツバキは賞金稼ぎというより、完全に危ない人、刃物を持たせてはいけない危険人物と化している。

 慌てふためくアルトに比して、クーラは、余裕の微笑みを魅せている。

「ツバキ、といったな。残念だろうが…貴様の剣で私の肌を傷つける事など、絶対に出来ない。戦うだけ無駄だ。三人とも、潔く降参する事を薦めるぞ」

 宇宙最強生物のセーラー少女が、正義の意思で美しく微笑んだ。


                      ~第二十七話 終わり~

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