第二十話 裏目!


 コハクが用意してくれたデジタル合い鍵ツールで、作業用のハッチからコロニー内へと、難なく侵入できた。

 倉庫らしい室内は、各種の作業道具を収納しておくスペースだけど、あまり使用された形跡は無し。

「ここからが勝負だっ!」

 宇宙服を脱いで、作業用具の中に押し込んでおく。

 抱えて来たバッグの中から、ミサイルランチャーや爆弾などを取り出して、手早く身に着けた。

 銃撃戦で宇宙服に穴を開けられても困るので、ここから先は、いつものマントと衣服の耐ビームスプレー頼みである。

「目指すのは…」

 免許にインプットしたコロニーの内部図と、運送屋さんの情報から、コハクが作成してくれた立体地図で、ドン・マーズの部屋までの経路を確認。

「ここだ。よし、行くぞっ!」

 扉を開けて飛び出したら、一斉に銃撃を浴びる。

「うわわっ!」

 慌てて倉庫に掛け戻ったら、肥えたオジサン声による、コロニー内放送が聞こえて来た。

『間抜けな侵入者め。あの船が囮だって事なんざ、どんな阿呆でも想像できるわっ! お前はワシの部下を殺した、賞金稼ぎのアルトとかいうガキだろう? ワシの首まで狙ってくるとは、度胸と無謀を履き違える愚か者だなっ! ガッハッハ!』

 高笑いが響くコロニーの狭い通路の先には、五人の銃撃者が確認できる。

「手下が全員いるっ!? それじゃあ、コイツらの船は誰がっ!? コハクっ!」

 女中ロイドに通信をしたら、特に慌てた風もなく、返信をしてきた。

『アルト様。出て来た違法改造の宇宙船は、特殊な電波が感知されておりますので、戦闘用ドロイドがコントロールしているようです』

「戦闘用ドロイドっ!?」

 人型の機械ではなく、宇宙船のメインコンピューターと接続されている、四角い箱のようなドロイドらしい。

 という知識のないアルトは、血も涙もない人型のロボが禍々しく冷酷に攻撃をしてくる想像が、頭を過る。

「だっ、大丈夫なのっ!? コハクっ、危険な相手なら僕に構わず–」

 逃げろと命令しようとしたら、やはりコハクは落ち着いて答えた。

『逃げる事など、命令されても致しません! コハクの主はアルト様、ただお一人です。現在、敵性プログラムの解析中ですので、こちらが片付き次第、援護に廻ります! どうか、それまでご無事で!』

 と、自信を滲ませながら、明るく通信を終えた。

 とりあえず、コハクが施してくれた耐ビームスプレーの効力が切れる前に、片を付けるつもりのようだ。

 あんなに明るく言われると、焦っていた少年の気持ちも、不思議と落ち着いてきた。

「…とにかく、マッドな博士が造った、宇宙船とコハクだもんな。良し!」

 いつの間にか銃撃が止んでいて、襲撃者たちは、こちらの様子を伺っているらしい。

 コハクの声に励まされた感じのアルトは、勇気が湧いてきていた。

「やってやるさ!」

 アルトは、ガンベルトのアルティメット・ナンブを抜くと、とりあえず敵のいる方向へ向かって、数発と放つ。

「アイツっ、生きてやがるぞっ!」

 襲撃者たちが確認する一瞬の隙を突いて、倉庫から身を乗り出して、ハンディ・ミサイルランチャーを一射。

 –ドシュゥゥウウンっ!

「餓鬼を殺っ–うわああっ!」

 侵入者を撃ち殺そうとして、壁の向こうから身を乗り出した襲撃者たちは、迫りくる小型ミサイルに驚いた。

 通路の逃走人数は、右に二人、左に三人。

 丁字路な通路の壁に着弾をして爆発する前に、アルトも倉庫から駆け出した。

 –っドオオオオオンっ!

 火薬を押さえているとはいえ結構な爆発の直後、襲撃者たちのいた突き当りの丁字路型の通路に駆け込んだアルトは、更に左右へ逃げた襲撃者たちへ、それぞれ追撃のミサイルを数発と放つ。

 –ドドシュドシュウウウンンっ!

「うわまた来たぞぉっ!」

「コロニーでミサイルを撃つバカがいるかああっ!」

 左右に逃げていた襲撃者たちは、追ってくるミサイルに慌てて逃走。

 内部図を参考に、右側の通路へ走ったアルトは、逃げた男たちの背中へと声を掛ける。

「こっちを向けっ! 賞金首たちっ!」

 男たちが振り向いて、侵入者が空になったミサイルランチャーを捨てる姿を見せると、二人の男が銃を向けてきた。

「ミサイルが無けりゃあっ–うげっ!」

 背後から撃つことにまだ自責の念を感じる少年は、自分の反射神経を信じて、銃を抜かせてから攻撃をする。

「てめぇっ–げぁっ!」

 一人目は一発で仕留めたものの、二人目は一射目をかわされて二射目で仕留める。

「ふう…一対二なら、なんとかなると思ったけど…」

 なんとかなった。

 と、拝み手をしながら少し安心をしつつ、ボスの部屋を目指して走る。

「コハクの忠告があって 良かったよ」

 アルトが用意した突撃銃だったら、相手はビビって退散とか、しなかっただろう。

 倉庫から走り出して、丁字路の破壊された壁や、また左への曲がり角など、要所に小型爆弾を仕掛ける事も忘れない。

 同時に、手の中のアルティメット・ナンブの威力にも、アルトはあらためて感激をした。

「神様の言っていた通り…ビームバリヤー以外は、撃ち抜けるんだな」

 襲撃者の服の艶を見るに、耐ビームスプレーを使っていた。

 肩に担いて両掌で使用するような大出力のビームキャノンならともかく、掌サイズのハンドガンでスプレーを一発貫通できるのは、本当に凄い。

 走りながら免許の地図を見ると、次の角を曲がればボスの部屋だ。

「ここの右が–うわっ!」

 角を曲がろうとして、先ほどの逃げた三人が先回りをしていて、銃撃を仕掛けてきた。

「あ、危なかった!」

 アルトの反射神経でなければ、飛び出したまま撃たれていただろう。

 角の壁に隠れながら、アルトも銃撃者たちに、エネルギー弾を放つ。

 –っギュウウゥゥンっ、ギュウウゥゥンっ!

 身を隠しながらの射撃で、二~三発で一人を撃ち抜く。

「ぎゃあっ!」

「ぐほっ!」

 銃撃戦が終わると、通路の先では三人の男が、こと切れていた。

 賞金首とはいえ倒した相手に、やはり拝み手。

「…あとは!」

 扉のロックを外して、用心しながら室内へと転がり込む。

 広い中央管制室を豪華に内装したらしい室内は、目にも痛々しい安い金色で、ヌメっと輝いている。

 大きな合皮ソファーや安めな絨毯、壁に掛けられた天井まで届く自画像や裸婦画など、ドン・マーズの悪趣味が、これでもかと誇示されていた。

「ほほう、ここまで辿り着くとはな。グッハハハ!」

 笑い声の主は、さっきのコロニー内放送でも聞いた、肥えたオジサンボイスなドン・マーズ、その人。

 大きなソファーに埋もれて気づけなかったけれど、バスローブを纏ったドン・マーズは、合皮のソファーにドッシリと埋まって腰かけていた。

「あなたが、ドン・マーズですね!」

 アルトは油断なく銃を向ける。

「お前がアルトか。随分と、ちっこいガキなんだな。それで、オレ様の首を取ろうって魂胆か?」

 勘違いも甚だしい。

「あなたが、僕たちを狙ったのでしょう!」

「お前がオレ様の部下を勝手に殺したからだよぉ! この世界、メンツってモンがモノを言うんでなぁ。お前みたいな名無しのチンケに部下を殺されて黙ってたとあっちゃあ、オレ様の面子が黙ってられないって話だぁ!」

「勝手な事を!」

 犯罪者のメンツとか、正義を志す少年的には、一番嫌いな理屈だ。

 強い意思で睨みつける少年に対し、ドン・マーズは余裕を隠さない。

「アルトったか? まぁ、お前がオレ様の部下として従うってぇなら、考えてやってもいいぜ?」

「ふざけないで下さいっ! 悪徳金融だの薬物の密売だのでしのいでいる犯罪者の部下になんてっ、死んでもなりませんよっ!」

「だろうなあ。そうでなくっちゃあ、オレ様も退屈するってモンだあ!」

「あなたの命っ、戴きますっ!」

 余裕で笑うドン・マーズに銃撃をしたら、ソファーの前で、エネルギー弾が弾かれる。

「っ!?」

「クックック…そんなちっこい銃なんかで、この違法改造で取り付けたビームシールドが、破れるモンかよっ!」

「くっ…っ!」

 初めて体験したビームシールドの威力に、アルトは一歩、後ずさりをする。

 少年が怯んだと読んだドン・マーズは、ソファーに近い柱の影に、声を掛ける。

「先生、出番ですぜ」

 呼ばれて、一人の小柄な少女が姿を見せる。

「! き、きみは…!」

 陣笠と蓑を纏った小柄なサムライ巫女、桑畑椿が、鋭い視線でアルトを見つめていた。


                      ~第二十話 終わり~

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