第十九話 作戦


 運送屋さんは、食料品や武器弾薬の運搬だけでなく、荷物運びやコロニー内の一部清掃なども、手当てなしで押し付けられていたらしい。

 とりあえず運送屋さんには自宅に隠れて貰って、アルトとコハクは、小判丸のブリッジで作戦会議。

 ブリッジの立体映像で、コロニーの内部構造を見ながら、作戦を練っていた。

「運送屋さんの話だと、コロニーの中心から北天方向の、この部屋がボスの部屋って事だよね」

「はい。武器弾薬は、先日の襲撃でそれなりに消耗されていると推測されますが、攻撃船は温存されておりますし、コロニーと船の銃火器は健在。と推察して宜しいかと」

「だよねぇ…」

 とにかく小規模組織とはいえ、ドン・マーズはアルトの命を狙って来たのだ。

 このまま火星から逃げても追われる身のままだし、なにより安心できないから、戦って無力化するのが正解だろう。

「コハクがこの船で囮になって、僕がコロニーに侵入をして、ドン・マーズを捕らえる。あるいは決着をつける…。っていうのが、一番かな?」

「下僕といたしましては、そのような危険度の高い作戦、賛成いたしかねます!」

 主を危険にさらす作戦に、女中少女は不満の様子だ。

「でもさ、相手は攻撃船とコロニーの攻撃兵器でしょ? 小判丸が攻撃をしかければ、攻撃船も出てくるだろうし、そうすれば五人しかいない構成員も、半分くらいには分断出来るんじゃない?」

「お、仰る通りだと、推察されますが…」

 コハクにとって小判丸はもう一体の自分だから、迷惑集団の操作する攻撃艦などには決して後れを取らないと、アルトも信じてるし、コハクも自信満々だ。

 ただそれは、小判丸にコハク自身が乗船している場合の話でもある。

 仮に、攻撃船とコロニーの攻撃を退けて、船ごとコロニーに突撃をしかけるとしても、その間にドン・マーズが脱出してしまうタイムラグも、否定できない。

「だからさ、僕は安心してコハクに囮役を任せられるし、多くても二人か三人程度の相手なら、自力で生き残らなければ、この先も無いに等しいだろうし」

 と言ってみても、正直、撃ち合いなんて怖い事は怖い。

「あのサムライ巫女とも、戦う事になりますが」

 コハクの指摘に、アルトも本音では戸惑う。

「まあ、そうなんだけどね…僕としては、手下たちも含めて、逃げるなら追うつもりとか 無いんだけどね」

 僅かだけど話をしたツバキの事を、思い出す。

「あのサムライ巫女が、逃げ出すとも思えません」

「ってもねえ…コハクは、何か いいアイディアある?」

 主の問いに、下僕少女が自信満々で答える。

「はい! 私が船ごとコロニーに突撃をかけまして、ドン・マーズやサムライ巫女を含めた全ての敵対者を強力融合キャノン砲で、宇宙の塵にも残らない程に破壊しつくします!」

 主を護る為ならば大量破壊も辞さないと、鼻息も荒く殺意マンマンなコハクである。

「そ、それは…。確かに安全だろうけど…。っていうか、強力融合キャノン砲って…?」

「あ、申し訳ありませんでした。まだ説明を 差し上げておりませんでした」

 リアルなテヘペロを初めて見た。

 一見すると無害で友好的で愛らしいネコ型航宙船の小判丸だけど、戦闘艦としては地球連邦軍の駆逐艦クラスだという。

「多次元ミサイルやビームバリアー、超硬質ショックエッジから第九次元ハッキングなどなど、ビーム系から実態弾から敵戦艦の乗っ取りまで、現時点の地球技術では何にも引けを取りませんです♡」

「そ、そう…」

 あの魔法使いのような博士の、技術と発明の賜物らしい。

「そういえば、なんかすごい人たちに発注されたんだっけ、コハクって」

「はい。ですが、悪事の為に使用されるのは嫌でしたので、アルト様に貰っていただけて、コハクは幸せです♡」

 優しい笑顔が、少年の自尊心を蕩けさせる。

「ま、まあ…とにかく、僕自身がある程度は出来ないと、この宇宙で生きていくうえで、自分自身が心配だから」

 と、あらためて潜入作戦を推すアルト。

「了解いたしました。ぷぅ…」

 了解していない了解を得て、アルトの作戦が採用された。


 先日のコロニーでの賞金が手に入ったので、コハクは停泊料金と、運送屋さんへの礼金を支払いつつ、様々な武器を購入。

「オーロラ手榴弾に、小型爆弾とリモコンスイッチ。突撃ライフルに耐ビームスプレーにオートサーチ端末に…」

 ギルドを通じた武器商人から、個人携帯が可能な武器防具を、大量購入している。

 コンテナレベルで買い付けた武器類が、宇宙港へと運び込まれて、小判丸のお腹に積み込まれた。

「これ、全部武器?」

「はい。アルト様には、これらを駆使して頂きます」

 それにしても、武器としては小隊クラスの物量だ。

 ハンディミサイルや突撃ライフルだけでも、それぞれ十丁はある。

「武器弾薬は消耗品ですから、現場で使用しなくても邪魔になったら捨ててくる。くらいのお気持ちで、ご使用下さい」

 と、教本や過去様々な惑星での戦闘記録などを参考に、コハクがアドバイスをくれた。

「そ、そうなんだ…」

 一人で敵陣に乗り込むという浪漫めいた気分が、本気で無理難題に思えてくる。

 小判丸が宇宙港から発進をして、ドン・マーズのコロニーから反対方向へと進んで、コロニーのレーダーの範囲外で反転。

 その間、アルトは倉庫で、武器の選択とチェックと装備を進めていた。

「とりあえず、アサルトライフルと手榴弾と、耐ビームスプレーかな」

 耐ビームスプレーは、衣服にスプレーしておくと一発くらいなら成分が蒸発をして、ビームを無効化してくれるスプレーだ。

 吹き付けてからの有効期限は三日ほど。

 宇宙を旅する賞金稼ぎはほぼ使用しているし、当然、ドン・マーズやその部下たちも使用しているだろう。

 だから、アサルトライフルで連射して、確実なダメージを狙う。

「まあ、相手もそう考えて、武装してくるだろうけど」

 それでも、自分たちのコロニー内で、爆弾は使用しないだろう。

 と考えて武器の選択をしていたら。倉庫にコハクがやって来た。

「アルト様、目標の宙域へ到着いたしました。いつでもコロニーに攻撃を仕掛けられます。武器の選択は いかがですか?」

「うん。どうかな?」

 選んだ武器をコハクに見せたら、小型のハンディ・ミサイルランチャーと、小型爆弾のスイッチも装備させられる。

「アルト様の御考えの通り、相手はなるべくコロニーを傷めない武器を使用すると推察できます。ですのでこちらは、破壊力の大きな武器が有効であると、過去の戦闘記録から推察いたします。それに、内部を移動しながら各所に小型爆弾を仕掛けてゆけば、敵に対する一手にもなると、推察いたします」

「なるほど…」

 耐ピムスプレーは、アルトにこそ有意義という事らしい。

「アルト様の衣服だけでなく、マントにも吹き付けておきましょう」

 そうすれば、防御回数は倍になる。

「それでも…コハクは心配です…」

 跪いて、主の全身にスプレーを振りながら、下僕の少女が憂いの眼差しで見上げてくる。

「じゃあコハクの言う通り、コロニーごと纏めて吹っ飛ばすか!」

 と言えてしまいそうな程、心配してくれる女の子の眼差しは、強力だ。

「じゅ、十分に気を付けるよ。それに、万が一にも危なくなったら、コハクに助けを求めるからさ」

「はい!」

 主からの信頼に、コハクは小さな両掌をグっと握って、決意を見せた。


「それじゃあ、作戦開始だ!」

『小判丸、発進いたします!』

 ネコ型航宙船が、ドン・マーズのコロニーに向かって突撃を開始。

 宇宙服に身を包んだアルトが、小判丸の後部ハッチで待機する。

『レーダー反応! 目標がこちらを確認しました!』

 艦内通信でブリッジから報告される状況に、アルトも緊張が高まってゆく。

 ハッチの傍のモニターで見られるコロニーは、警告も無しで小判丸へと、攻撃を仕掛けてきた。

 画面の中央で、火星の光を反射する小さいピンポン玉というかアルミ玉から、ビームがギュンギュンと乱射されてくる。

「うわ凄い!」

『余裕でございます』

 コハクは小判丸をスイスイと飛ばせて、反撃のビームも撃ちながら、コロニーへグングンと接近してゆく。

 ビームやミサイルを避けつつ、コロニーの上空一キロというニアミスで通過。

 そのタイミングで、アルトはハッチを開けて飛び出し、コロニーへと飛翔して、カエルみたいに外壁へと張り付いた。

「到着っ!」

『アルト様っ、お怪我はっ!?』

「大丈夫!」

 ミサイルを迎撃してビームを避けて遠ざかる小判丸を追撃せんと、コロニーから、違法改造の攻撃船が発進をする。

「よし、狙い通りだっ! これから侵入する!」

『ご武運をっ!』

 女中少女の激励を貰って、アルトはコロニーの作業用ハッチを目指した。


                       ~第十九話 終わり~

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る