第十七話 襲撃者を倒せ!
上空を押さえた二機の戦闘機は、岩場のアルトたちを見つけると、同時のタイミングで攻撃をしてきた。
「うわ来たっ!」
慌ててメカホースを走らせると、元いた場所へと着弾をする。
「明らかにっ、僕たちを狙ってるよねっ!」
「その可能性は九十八パーセントと算出されます」
「残りの二パーセントはっ?」
「天文学的で様々な偶然です」
「たしかに、説明できない例えだねっ!」
逃走する二人への追撃は、静まる様子がない。
航空機の推進力を考えても、こちらの逃走速度に合わせて減速をして、追ってきている。
アルトも、身体を捻って後方上空へと反撃してみるものの、走る馬上から無理な体勢では、頭上を高速飛行する戦闘機に命中させる事なんて、とても難しい。
こちらの反撃を余裕で避ける敵機は、ときおり低空で追い越して、反転して前方から撃ってきたり。
「こっちを弄んでいるっ!」
戦いは一方的だ。
「たしかに考えられますが、こちらが的として小さすぎて、単に命中させられない。という可能性も、五十%ほど」
「そうなのっ?」
アンドロイドの分析では。
「はい。後を追うにしても、前方から反転してくるにしても、軌跡の乱れが目立ちすぎます。操縦そのものに、慣れを感じられません」
どうやら襲撃者たちは、エアビークル専門というワケではないらしい。
しかも、二機はビームバルカンで銃撃をしてくるものの、どちらも好き勝手に攻撃をしていて、連携している様子もない。
「やっぱり別々の敵、って事か!」
「アルト様、いかが致しましょう」
女中少女は、戦闘機が前方から戻って来る時には主の前へとメカホースを走らせて、敢えて盾となっている。
しかしこのまま逃げ続けていても、いつかは攻撃を受けてしまうだろう。
「このままだと、コハクが危ないっ–あれはっ!」
前方の高い岩場に、大きな隙間を見つけた。
高い岩山が二つに割れたような形をしていて、メカホースなら余裕で走り込めるだろうけれど、エアビークルでは難しそう。
「コハク、そのまま あの隙間に逃げ込もう!」
「はい、アルト様」
二頭のメカホースが逃げ込む様子は、襲撃者たちにも見えているだろう。
しかし上空からでは、岩の隙間が狭いのと陽光の関係で、隙間の奥は影になって全く目視できない。
(可能性は二つ!)
①敵が岩の上を銃撃してコチラを岩の下敷きにしようとする。
②)機体を横に傾けてでも岩の隙間に突入して追ってくる。
(か…!)
①なら逃げきる自信がある。
②なら迎撃する自信がある。
「どっちだ!」
岩間に逃げ込んだら、一機が機体を倒して、隙間に入り込んできた。
「来た! コハク、全速で走って!」
「はい!」
メカホースの速度を上げると、敵機も速度を上げて銃撃をしてくる。
狭い岩場でのビームの乱射で、左右の岩壁が砕かれて散り、ゴツゴツと体に当たる。
「くそっ! でもこれで終わりだっ!」
アルトは前方斜め上の岩に向かって、左右を次々と銃撃してゆく。
–ギュウウウゥゥゥンっ、ギュギュウウウゥゥゥンっ!
頭上の岩が打ち砕かれて、大きな塊となって、落下をしてくる。
狙った場所は、アルトたちが落岩から走り抜けられるだけのタイミングを、十分に考慮していた。
そして直進飛行が武器である襲撃者は、狭い岩場で転げ落ちる岩たちに激突をされて、そのまま岩間の地面へと墜落。
戦闘機は巨大な爆音と爆炎を上げて、パイロットと共に爆散をした。
「よし、あと一機だっ!」
もう一機は岩間に入って来る事なく、上空から岩間への乱射で、コチラを仕留めようとしていた。
「コハクっ、僕の馬を引いてくれっ!」
「はい!」
前方のコハクに手綱を投げ渡すと、メカホースはコハクの操馬に従って、走り続ける。
「よし!」
走るメカホースの上で、アルトは姿勢を後ろ向きに変える。
両脚をステップに固定すると、仰向けに寝そべって、馬の首へと背中を預けた。
全身を安定させると、岩間から覗く上空を飛ぶ戦闘機へと、狙いを定める。
「この体勢なら…っ!」
上空の後方から追ってくる敵機に向けて、狙いを定めて一射。
–ギュウウウゥゥゥンっ!
下側から胴体を貫通された戦闘機は、煙と火花を吐きながら僅かに失速をすると、空中で盛大な爆発を見せて散った。
「ふう…」
とりあえず、襲撃者たちは撃退したらしい。
岩などで埃まみれにはなったけれど、二人にもメカホースにも、怪我はなし。
「アルト様っ、流石ですっ!」
女中少女は、主の無事が嬉しくて元気に微笑んだ。
メカホースを止めて、未だ燃える戦闘機の元へ。
使者に対してアルトが合掌を捧げている間に、それぞれの機体やパイロットの残骸から、コハクが色々と分析をしてくれている。
頑張って疾走したメカホースたちは、本体を冷やす為に川で水を飲み、生体パーツを保全する為に草を食んでいる。
メカ部分のエネルギーは、体表への太陽光で補っているのだとか。
「メカが草を食べている…」
二十一世紀人のアルトからすれば、不思議な光景だ。
「アルト様、分析が完了いたしました」
女中少女が、襲撃者の指紋が検出できる武器を手に、戻って来る。
「岩間に入って来た機体は、このコロニーに隠れていた賞金首です。もう一機は、アルト様を狙ったコロニー外からの賞金稼ぎと断定して、間違いありません」
「賞金稼ぎか…」
賞金稼ぎが賞金稼ぎに狙われるのは、体験しているから疑問はない。
「その賞金稼ぎは、やっぱり賞金首なの?」
「そうとも言えますが、少し興味深い事実も、わかりました」
「どんな?」
「賞金稼ぎのほうですが、どうやら個人ではなく、組織が関係している人物のようです」
「組織? どういう事?」
コハクの分析によると、賞金稼ぎのデータを照合した結果。
「火星の裏組織、ドン・マーズの組織構成員と照合、合致いたしました」
「ドン・マーズ…ああ」
先日に街で出会った、サムライ巫女の桑畑椿が、そんな組織の話をしていた。
「つまり、あの剣戟巫女さんのいる組織? なんでそんな組織が、僕を…?」
狙われている謂われといえば。
「…部下を殺された、メンツ…?」
ドン・マーズとやらは、部下の裏切りを用心棒に始末させようとしていた。
しかし、知らずにアルトが討ってしまった。
生前に、自分なりでも犯罪心理を研究したアルトは、結論を出す。
「だから、組織としてはナメられてたまるか! みたいな?」
「と、私も推論いたします」
「なにそれ~! 言っちゃえば、逆恨みもいいトコじゃん~!」
なんであれ、裏組織に狙われている事は、間違いないらしい。
「イヤだなぁ。もうこのまま火星圏から逃げて…いやでも、折角の賞金が…」
廃材となった戦闘機をチラと見て、とにもかくにもお金を稼がなければならない現実と、向き合う。
「その組織って、あの侍巫女がいるんだよね? 用心棒がいるくらいだし、でっかい組織なんだろうなぁ…」
と愚痴をこぼしたら、従順な女中少女が、真面目に答える。
「組織といたしましたは、さほど大きくはありません。アルト様の時代の生活環境に照らし合わせますれば、町内会が頭を悩ませる迷惑集団。くらいの規模に相当します」
「ご町内の迷惑な人たち…?」
ドン・マーズという名前のイメージから、いきなり矮小になってしまった感じだ。
「コハクの計算ですが、アルト様のご意思次第によりましては、十分、壊滅可能な規模でございます」
「ホ、ホント?」
そう聞くと、ちょっとワクワクもしてくる。
「補足情報ですが、ドン・マーズ自身も指名手配されておりますので、賞金稼ぎに狙われる理由は、十分にあります」
「そうか…」
アルトでも何とかなりそうな規模で、しかも相手がこちらを狙っていて、賞金首でもある。
ならば、逃げるよりも倒した方が、良いのでは。
「…そうしてみるか…!」
不安はあるけれど、怯えて逃げ続けるよりはマシな気がする、若さからの度胸。
「とにかく、まずは組織の本拠地とか、具体的な情報を集めたいな」
「了解しました」
二人はメカホースを走らせて、港へと向かう。
アルトの頭には、サムライ巫女とは戦いたくないなぁ。という想いが過っていた。
~第十七話 終わり~
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