第十六話 銃撃戦
「あそこか…」
メカホースの走破性は素晴らしく、急な坂だけでなく、獣道だろうが林だろうが岩だろうが。お構いなし。
賞金首が隠れているという岩場へは十分もしないで到着をして、アルトとコハクは岩に隠れて様子を見ていた。
少し離れた草地にメカホースを待機させて、アルトの宇宙服も荷物として載せて来たので、今の少年はいつもの賞金稼ぎスタイルである。
「アルト様。岩穴の内部に、ヒューマノイドタイプの生体反応が二つです」
十メートル以上はあるだろう岩場に、直径が三メートルほどの穴が開いていて、奥は深そうで見えない。
「今、ここに隠れているって事か…岩穴の中とか、解る?」
内部の様子が解れば、更に対策も立てやすい。
「コロニーの構造材で作成された人工物の岩ですので、捜索そのものは容易です…捜査完了。資材倉庫として使用されていた構造のまま、手つかずのようです。隠れ家の奥に逃走用の隠し扉などを増設した形跡は、見られません」
つまり、出入り口は岩場の穴だけ。
「解った。それじゃあ、コハクはこの岩場に待機してて」
「はい。え…?」
主の命令を忠実に守るコハクが驚いたのは、アルトが岩場の高い場所へと上がり、身を隠さずに銃を抜いたからだ。
賞金首を相手に、流石に危険とかそういうレベルを超えている。
「アっ、アルト様っ!」
下僕の和装少女が止める間もなく、賞金稼ぎの少年は、アルティメット・ナンブを洞穴へ向けて一射した。
–ギュウウウゥゥゥンっ!
エネルギー弾は岩穴の入り口に命中をして、大きな破壊音を立てて、静かなコロニーでどこまでも轟く。
そしてアルトは、大声で名乗った。
「僕の名前はアルト・キミオ! いわゆる賞金稼ぎです! 重犯罪指名手配のオレタッチー&アスナッシーさん! あなたたちを、討ち取りに来ました!」
「アっアルト様っ、危険ですっ!」
名乗って数秒間、岩場から緊張と敵意の空気が感じられる。
–ダギュウウウゥゥゥンッ!
洞穴から、大きなエネルギー弾が放たれてきた。
「うわっ!」
正確な射撃は、名乗った少年の胸を狙っていて、銃撃を予想していたアルトは超絶な反射神経で背後へと飛び退き、ギリのギリで難を逃れた。
マントと、衣服の胸部分がエネルギー弾に掠められて、穴が開いてしまう。
まさに、一瞬のタイミングでの、命拾い。
襲撃者の死を確認できていない強盗犯たちは、姿を見せずに、二人揃って銃弾の雨を降らせてきた。
–ッダダダダダダダダダダダダッ!
–ダギュダギュダギュダギュンッ!
大きな岩に隠れるアルトは、身を縮めて無事を安堵しながら、銃撃者たちの様子もうかがう。
「うわ~危なかった~っ! もう少しでっ、撃ち抜かれるところだったっ!」
「当たり前ですっ! アルト様っ、何をお考えなのですかっ!?」
心配する女中少女の媚顔には、怒りが伺える。
「ご、ごめんコハク…。ただ、ああすれば敵の場所とかハッキリするなぁ…とか思ってさ」
「ですがっ!」
そのために身を晒すとか、いくら常識外の行動でも、相手が一瞬とはいえ呆気にとられたと言っても、結果論だけで、あんまりにも危険すぎる。
心配と怒りの収まらない様子な女中少女に、アルトは恐る恐る、命令を下す。
「で、コ、コハク…。あ、あの銃撃は、ドロイドとかオートガーディアンとかじゃ、ないよね…?」
主がドロイドに対する正しい使用方法を提示して見せたので、女中少女も、納得はしていないけれど怒りを収める。
「…はい。銃撃は生体反応と同調しておりますし、ドロイドなどの反応も、検出できません」
「よし…! コハク、二人の場所、解るよね?」
コハクに命じて、あらためて洞窟からの射線をもとに、犯罪者たちの隠れている地点を算出させる。
「解析完了しました。向かって右側、出入り口より一メートル程の岩を盾に一体。左側の屈折洞穴に身を潜めている一体。以上です」
その場所から、銃撃をしているのだ。
「流石…名乗って出たのが一人だからって、油断して出てくる。なんて事はないか」
むしろ囮としては解りやす過ぎて、洞穴内部からの銃撃で抵抗するのが普通だろう。
二人の隠れている場所を、コハクがアルトへ免許を通じて立体映像として映し出してくれて、アルトは目標の場所を確認。
「場所が解れば…ふぅっ!」
大きく息を吐いて、素早く右側へと跳躍。
岩陰から飛び出して銃撃を避けながら、岩穴の左側へと一撃斜。
–ギュウウウゥゥゥンっ!
眩い光弾が洞穴へと吸い込まれて行くと、中から「ぎゃあっ!」と、かすれた女の悲鳴が聞こえた。
更に中から「アスナッシーっ!」と、野太い男の声が聞こえる。
「一人は討った!」
転がって立ち上がるアルトに、油断があった。
洞穴の中から「あのガキっ!」と罵声が聴こえ、一瞬、こちらに向かって銃口の銀艶が見える。
「!」
撃たれる。
しかも正面。
死ぬ。
と、思考ではなく感覚で理解をさせられて、冷や汗がドっと噴き出した。
と思った瞬間、岩陰で待機していたコハクが、左側へと転げ出した。
「!」
突然の、二人目の影に、穴中の男は意識を奪われ、発泡寸前の指が止まる。
今だ。
そう感じた瞬間には、アルトはアルティメット・ナンブの引き金を引いていた。
–ギュウウウゥゥゥンっ!
甲高いエネルギー音で光弾が放たれて、洞穴の中から「グゥッ!」と、男の断末魔が聞こえる。
それから数秒、止んだ銃撃は再開されなかった。
「…ふぅ。倒したみたいだね」
「アルト様!」
女中少女が、心配げに駆け寄ってくる。
「コハク、助けてくれてありがとう。おかげで、僕は生きているよ」
少年の礼に、しかし女中少女は、御冠だ。
「生きているよ。ではありません! あのような危険な行動、このコハクには全く理解が出来ませんしっ、全くもって賛同致しかねますっ!」
主を心配するあまり、下僕にはあるまじきかもしれないが、激怒していた。
「ほ、本当にごめん。今後はもう、あんな危ない事は、しないから…どうか…」
合掌で謝罪をすると、女中少女は暫し頬を膨らませた後、怒りを飲み込む。
「ア、アルト様の御意思に逆らう事など、いたしませんけれど…」
「はい…反省します」
色々と言いたい事も飲み込んだコハクに、アルトは頭が上がらなかった。
そして、フと思う。
「コハク、相手の注意を引くために、飛び出したんでしょ? 助かったけど、そういう危険な行動とか、僕と一緒だよね」
「え、あ、それはその…うぅ…」
主と同じと言われて、どこか嬉しくて言葉を失うコハクであった。
注意しながら岩穴へと入って、連続銀行強盗の重犯罪者であるオレタッチー&アスナッシーの写真を撮影。
太ったオレタッチーと痩せたアスナッシーは、情報によると兄妹だったらしい。
「アルト様。ギルドへの討伐完了の報告、終了いたしました」
「ありがとう。後は…あった」
写真だけでなく、証明できる実物の証拠があると、審査も早いらしい。
一番手っ取り早いのは遺伝子審査だから、生首とか手首が良いという。
「そんなの持って帰るのイヤだから…」
指紋からも遺伝子検査は可能らしいので。アルトは合掌を捧げつつ、二人が使っていた銃を回収した。
「これで大丈夫なんだよね?」
「はい。指紋も目一杯に付着して–アルト様っ!」
明るい洞穴の入り口で確認をしていたら、アンドロイドの女中少女に洞穴内へと押し倒される。
同時に、アルトたちのいた岩場が、銃弾で酷く抉られた。
「うわっ、何なにっ!?」
どこからか、謎の銃撃。
コハクに従って上空を見上げると、飛行タイプのビークルが二機、岩場に向かって飛行してきていた。
「あ、あいつらが撃ってきたのっ?」
アルトの名乗りや銃撃戦の音を聞いて、隠れていた別の犯罪者たちが、逆に襲撃を仕掛けて来たらしい。
「はい。一機はそう推測されますが、もう一機は、別の襲撃者と推測されます」
「別の襲撃者?」
~第十六話 終わり~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます