第三話 殺人者の能力
背にした金属の山は、少し広くて高く、身を隠すには十分である。
しかし、三体の殺し屋たちは当たり前に、左右から挟み撃ちにしてくるだろう。
「おいおいいっ、そんなところに隠れたってぇ、また死ぬ時間が少ぉし、遅くなるだけなんだぜええっ!」
「ピパポピコンパピカシャパラパピポー」
銃を持ってるなら撃ってこいよぉ。
と、メカボールも挑発をしていた。
–ビュンビュンッ、ドシュウンッ!
面白半分な銃撃が、盾としている金属に当たって弾けて、盛大な火花を散らす。
「うわっ!」
思わず身がすくんて、声が出てしまった。
「ビビってやがるぜぇっ! この腰抜けがぁっ!」
長髪と言うより、自己満足な言い分である。
犯罪者の言葉は、降伏と自白だけ聞けば良い。
海外の元警察官の回顧録でそう学んでいた公男は、殺人者たちの言葉よりも、足音に注意を向ける。
(近いのは…メカゴリラの方か!)
意思疎通が出来る相手への銃撃なんて初めてだし、勝てるかどうかなんてわからないけれど、戦わなければ確実に殺されるのだ。
(…やるっ!)
何かの教本で読んだ深呼吸で心を落ち着かせると、片膝立ちになり、左側のメカボールにも注意しながら、右側へと飛び出す準備。
生前、人の足音を聞き分けて方角や距離などを判別できるよう、常日頃から自己鍛錬していた公男である。
金属がぶつかり合う足音で、おおよその距離と位置を特定すると、意を決して、思いっきり飛び出した。
「!」
「あっ!」
鍛えた身体の瞬発力は素晴らしく、ひとっ飛びでメカゴリラの視界を通り過ぎる。
メカゴリラたちは、少年がオドオドしながら銃を向ける、とか思っていたのだろう。
公男の素早い跳躍に、一瞬だけ意識が戸惑い、反応が遅れる殺人者たち。
その一瞬で、公男は相手の位置を視界で正しく認識をして、一番大きな的であるメカゴリラの胴体を射撃。
–ギュウウウゥゥゥンっ!
眩い閃光が一筋走り、メカゴリラのお腹から背中までが、貫通される。
「グエェッ!」
射撃の威力に比して大きな衝撃を受けたメカゴリラは、後方に吹っ飛ばされながら金属の口から緑色の科学血液を吐き出して、金属ゴミの上に転がった。
「ぁあっ!」
「パピコンッ!?」
一人と一体の殺人者が、仲間の死に、驚きの声を上げる。
低い横っ飛びで金属の地へと落着した公男は、初めて相手を殺した事実に驚きながら、しかし素早く立ち上がっていた。
「倒した…ハっ!」
わずかに意識と手が震えながら、しかし死との闘いも忘れない。
「ピコパピカシュリッ!」
メカ同士の相棒を殺されたメカボールが、言葉が解らなくても解るくらいに怒りを露わにして、高速飛行で襲撃をしてきた。
「うわっ、こいつっ!」
素早く飛翔するメカボールの射撃を素早く避けながら、反撃の一発目が外れて、二発目を外れると予想して避ける先へと置き撃ちをしていた三発目を、命中させる。
「ピリャーーーーッ!」
異常なノイズ音を発しながら、真ん中から少し外れた胴体を撃ち抜かれたメカボールは、まさしくボールの如く落着をして、小さな爆発で機能停止をした。
「はぁ…当てられる…っ!」
初めての銃撃戦で、二体の殺し屋を撃退した。
身体には小さな震えが残るモノの、銃撃を命中させるという実感は解った。
意識が、少しずつだけど高揚してゆく。
「て、手前ぇ…っ!」
さっき容易く殺したはずな少年の、以前とは全く違う動きに、殺し屋も動揺を隠せない。
公男はコートの漢を睨みながら立ち上がり、尋ねる。
「…一つ 聞かせてください。なぜこの身体…僕は殺されたんですか? あなたは僕に、何の恨みがあったんですか?」
「僕…? お前…本当に、あのガキなのか…?」
公男の言葉遣いに違和感を感じたらしいものの、殺しの世界で生きて来た男は、目の前の仕事から意識を外す事もない。
「いいから答えてください! ついでに、あなたは誰なんですか?」
過去から転移してきたなんて、どうせ信じないだろう。
気を遣う必要もないので、公男は気になる事を、遠慮なく問うた。
「オレを知らないとか…ククク、まさかとは思うが、それが挑発のつもりか? やっぱり手前ぇは、ドまぬけ野郎だぜぇ!」
殺し屋は、目の前の現実を、自分が認識できる範囲の情報として納得をしたらしい。
ビビりだった少年が、たまたま射撃が上手くいったから、強く出ている。
(つまりそれが、この身体の持ち主に対する評価…って事か)
睨み合う二人の間に、小さくて異常な変化が訪れる。
「ククク…まぁいいさ。どのみち、今度こそ殺してやるんだからなぁ!」
笑いながら、殺し屋が目の前から、一瞬で消える。
「えっ!?」
我が目を疑って、周囲を警戒したら、視界の左端に何かを捕らえ、金属の音が聞こえる。
「終わりだっ!」
左からの銃撃を反射的に避けて、左側に銃撃を返したら、視界に捉えたはずの男の姿が、また消えた。
「チっ、ガキがっ!」
右側の視界の端に何かを捕らえると同時に声が聞こえて、公男は銃撃を反射神経だけで避けて、走り出す。
「あの男…!」
どうやら殺し屋は、限定的だけどテレポートが出来るっぽい。
走りながら、考える。
姿を消す際には足音がしなかったし、現れた瞬間に足音がしたから、間違いないだろう。
もちろん理屈は解らないけれど、そんな動きが出来る相手という危機は、単純に事実だ。
ついでに、まるでSFだ。
「ノロいぜガキっ!」
視界の右端に捕らえた姿と閃光に対して、反射的に避ける公男。
「手前ぇっ、チョコマカとぉっ! 相変わらず逃げ足だけはっ、一丁ぅ前でいやがるなあっ!」
そういう少年だったのだろう。
公男が殺人者の銃撃を避けているのは、この少年の肉体的な才能と、生前の公男自身の鍛錬の賜なのだろう。
しかし、逃げ続けて避け続けているだけでは、いずれ殺される。
(こいつの動きは…!)
ターゲットの視界の端にばかり出現わするのは、その範囲でしか動けないからだと考えられる。
と考えさせる事で、自分の能力を見極められないようにしている可能性だって、当然ある。
しかし今、そんなミスリードに、意味があるとは思えない。
(僕だったら、まずは物陰にテレポートして、より優位に戦うし!)
走る公男を撃っては消えて、撃たれては避けて。
の攻防を更に数回繰り返して、公男は攻略法を思いついた。
出現した殺し屋へと銃撃をして、殺し屋が姿を消して、視界の端に現れるタイミングを見計らって、先回りで置き撃ち。
敵の攻撃を避けて反撃をして。
「チっ、このガキっ!」
殺し屋が毒づいて、左右の二択。
(同じ場所!)
こちらの動きを呼んだ相手の先を読んで、左側が消えたので、そのまま左側へともう一射。
–ギュウウウゥゥゥンっ!
「うげっ!」
数回の攻防で、殺し屋のテレポート先はだいたい読めていたから、先読みと置き撃ちは完全に有効。
殺し屋からすれば、これまで絶対有利だったテレポート射撃を、ここまで避けられ続けた経験など、無かったのだろう。
能力とクセを読まれて胸に光弾を受けた殺し屋は、そのまま背後へと吹っ飛ばされて、無機質の地に有機色の血を噴き出した。
「あうぅ…て、手前ぇ、やっぱり…あのガキじゃあ…ねぇな…」
相手が犯罪者とはいえ、公男は誠実に向き合う。
「僕は、過去の時間からこの身体に転移してきた、この身体の先祖といったところです。僕の質問にも、答えて下さい」
あまり期待はしていなかったけれど、意外にも殺し屋は、答えてくれた。
「お、お前に恨みなんか、ねぇよ…殺しは仕事だぁ…。い、依頼人は、言えねぇが…もしお前が…生き延びたい…なら…せめて、この宙域 からは 逃げ…」
そういって、殺し屋は死んだ。
「…とにかく、ボクを殺そうとしている人物がいて、せめてこの星からは逃げた方が良い、って事か…」
ほとんど、何もわからなかったに等しい。
公男は、三体の殺し屋の懐を探って情報を探したものの、見つけたのは、男の財布とメカゴリラのエネルギーバナナと、メカボールのエネルギーチップだけだった。
「まあ、情報を持ち歩く犯罪者だったら、殺し屋稼業で生きていけないだろうけどね」
公男は、金属の地に三体の墓を作って、手を合わせる。
「閻魔様に土下座をしてください」
ここが未来世界でも、天国や地獄にとっては、関係ないだろう。
犯罪者たちの墓を建てて合掌をしたら、もう高揚した気分が落ち着いていて、身体や意識の震えも静まっていた。
初めての、命のヤリトリのショックが、予想していたよりも大きくはならなかったのも、日ごろの鍛錬と少年なりの覚悟のおかげかもしれない。
「…結局、ここがいつの時代で、そもそも地球なのかどうかも、解らないままだな」
遠くに見える、煌びやかな超高層ビルに向かうしか、今はない。
「…あの創造主様、つくづく適当な気がするなぁ…」
スクラップ置き場の壁の外には、殺し屋たちが乗って来たらしい半重力ビークルが放置してある。
「鍵…付いてるな」
コックピットを見ると、操縦系は、ハンドルとアクセルとブレーキしかない。
「…あとは、オート制御とか なのかな…?」
少年の声に、ビークルが反応。
『警告します。ビークル窃盗は犯罪です。搭乗者のDNAが登録と合致しない場合、すみやかに警察機関へと通報されます』
「うわ殺し屋が防犯対策だって」
なんとなくガッカリしながら、公男は遠くに見える街まで、徒歩で向かう決意をした。
~第三話 終わり~
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