第86話

とても暖かな空間にいたはずの僕は、手にサラリとした感触を覚えて目を開けた。



視界はぼやけていてハッキリしないし、体が重たいし、薬品臭い。



さっきまでとは大違いだ。



どうにか首を動かして周囲を確認してみると、僕の横に愛菜がいた。



突然愛菜と視線がぶつかった僕は驚いて声を上げそうになった。



愛菜も目を見開きなにか言っているが言葉になっていない。



「ルキが……ルキが起きたよ!!」



しばらく意味不明な言葉を連呼していた愛菜がようやく言葉らしい言葉を発した。



その声に反応するようにクラスメートたちがベッドに近づいて来た。



あぁ。



ここは病院なんだ。



僕は湖面から見た光景を思い出してそう理解した。



僕は戻って来たんだ、この町に。



「ルキ!」



「ルキ、大丈夫!?」



「ルキ、俺がわかるか?」



「ルキ心配したんだからね!?」



「ルキ、よかった!」



自分の名前をこれほど呼ばれた事は今までなかったかもしれない。



そう思うと、フッと笑みがこぼれた。



随分と心配させていたようだ。



「ルキ……ごめんねルキ……」



愛菜が僕の隣で泣きじゃくっている。



僕はそんな愛菜の頬に触れた。



冷たい涙を指先でぬぐう。



「みんなの気持ちは僕が一番良く知ってる」



僕は自信満々にそう言った。



「どういうこと?」



愛菜が涙目のまま聞き返して来る。



僕はスッと息を吸い込んで、【捨てられた町】の話をみんなに聞かせてあげたのだった。





END

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

捨てられた町 西羽咲 花月 @katsuki03

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ