第85話

僕はたまらず、カエルの体を抱きしめた。



プラスチックのツルリとした感触がある。



「またすぐに会いに来るよ。夢の中でこの町に来ることができるんだろ? だったら、すぐに会えるじゃないか」



僕はそう言いながらも、あれは優しい嘘だったのだと気が付いていた。



【捨てられた町】の住人は嘘をつくことができない。



それを、みんなで忘れていたようだ。



僕はカエルの体を離して立ちあがった。



ここにいると自分の気持ちが揺らいでしまいそうだ。



「じゃぁ、僕はもう行くから」



「あぁ。元気でな」



カエルが片手を上げて見せた。



僕はそれに答えて手を振る。



どうしてあの時、カエルを捨ててしまったんだろう。



そんな後悔が胸に湧いてくるのを感じる。



もう少し大切にすればよかったんだ。



カエルはこんなにも優しいやつだったのに。



僕はその後悔を顔には出さず、ほほ笑んだまま光の中に立った。



瞬間、体が軽くなる。



辛い気持ちが晴れて行き、涙がひいていくのがわかった。



それはとても暖かい空間だった……。

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