第63話

翌日。



僕はカエルの叫び声によって目を覚ました。



勢いよく布団から飛び出して一階へと走る。



僕の後ろを本が転げながらついて来た。



「カエル、一体どうしたんだ?」



そう言いながら部屋を開けて入ると、砂嵐が写っているテレビにすがりついているカエルがいた。



カエルは大声で泣いていて僕と本が部屋に入って来たことにも気が付いていない。



「カエル。どうしたんだよ!」



僕は大きな声を出してカエルの体を揺さぶった。



するとカエルはようやく僕の存在に気が付き、こちらへ視線を向けた。



その目は真っ赤に充血している。



「テレビが……テレビが死んでしまった……」



今まで聞いたことのないほど弱弱しい声でそう言うカエル。



「テレビが死んだ?」



僕はテレビ画面へと視線向けた。



確かに、画面に写っているのはただの砂嵐だ。



チャンネルを回して確認してみても、どのチャンネルも写らない。



しばらく様子を見ていると、突然ブツンッと音を立てて画面は真っ暗になってしまった。



「寿命だったんだな」



本がテレビを見上げてそう言った。



するとカエルの目から再び大粒の涙が溢れはじめたのだ。



「昨日俺がつけっぱなしで寝たからだ!!」



「そんなことは関係ない。遅かれ早かれ、このテレビは死んでいた」



「でも! つけっぱなしになんてしていなければ、今日はまだ写っていたはずだったのに!!」



カエルは泣き叫びながらテレビに縋り付く。



「この町に来たら50年間はここにいられるってワケでもないのか」



僕は壊れてしまったテレビを見てそう言った。



「蛇女やミミのように満たされて行くものもいれば、テレビのように完全に壊れてしまうものもある」



カエルがしゃくり上げながら説明してくれた。



「こうして使い切って死んだ魂はどうなるの?」



「役目を完全に果たして死んだ魂は、再びなにかの物となって戻って来る。人間でいう転生ってやつだな」



本がそう言った。



「それならそんなに泣く事ないじゃないか。テレビはまた魂を持って生まれてくるんだ」



「でも、でも……」



カエルは泣きじゃくり、テレビにすがりつく。



そんなにもこのテレビの事が好きだったのかと、僕は呆れてしまう。



昔の番組を見る事ができたことは楽しかったけれど、カエルほどの執着は持っていなかった。

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