第64話
「あまり泣いているとテレビが浄化されないだろ」
本がそう言い、そっとカエルの背中を撫でた。
カエルは涙を流しながらもテレビから身を離す。
すると次の瞬間、真っ暗だったテレビ画面が不意に明るくなったのだ。
それは眩しいほどの光で、僕は目を細めた。
テレビ画面にはニッコリとほほ笑む女性の顔が浮かんでいた。
「カエルさん。最後まで私のテレビを見てくれてありがとう」
女性がそう言うと、テレビ画面は再び暗転し、テレビは光に包まれて消えて行ってしまったのだった。
テレビは役目をはたして消えて行った。
人間で言えば老衰という部類に入るらしい。
「テレビはお前に毎日見てもらえて幸せだったと思うよ」
僕はカエルと本に熱いお茶をいれてそう言った。
「そうだといいけど……」
カエルはまだしゃくり上げている。
この町にきてからずっと一緒にいたテレビだ。
カエルにとっては親友みたいなものだったのかもしれないな。
僕はそう思い、熱いお茶をひと口飲んだ。
親友がいなくなるというのはとても悲しい事だ。
カエルとは少し違うけれど、僕も親友と失った事があった。
毎日毎日飽きもせず一緒にいた親友が、ある日突然冷たくなり始めたのだ。
原因はわからなかった。
僕に非があるなら謝るつもりでいたけれど、それもさせてもらえなかった。
それ所か、親友だと思っていた彼は僕を遠巻きに見て笑うようになったのだ。
僕は彼の悪口を言った事なんて1度もなかった。
それなのに彼は、僕の悪口に乗っかり、僕を指さして笑うようになった。
「僕がいる」
僕は過去の苦い思い出を熱いお茶と共に飲み干して、そう言った。
カエルが驚いたように顔をあげた。
「この町の住人は嘘をつかない。嘘をついたとしても、バレバレだからだ。だけどそれは悪い事じゃないと思う。
人を欺き、落としいれる事がないってことだ。僕はそんな町にいるカエルと、親友になりたい」
恥ずかしいと思えるような言葉がスラスラと自分の口から出て来て、僕自身も驚いていた。
だけどカエルは徐々に笑顔になり、そして僕の膝に飛び乗って来た。
「ありがとう。俺も、ルキを親友だと思うよ」
カエルは僕に背中を向けてそう言った。
だけどその顔がにやけていることを、僕は知っていたのだった。
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