第61話

その湖は蛇女がいた山の反対側にあった。



とても大きなひょうたん型の湖で、水は透明でよく澄んでいた。



「この湖、僕の町にもあった」



「その町とこの湖は繋がっているんだ」



「繋がってる?」



僕は本の言葉に首を傾げた。



「ほら、見て見ろ」



本が身を乗り出して湖の湖面を指さした。



僕もおなじように身を乗り出して湖面を見る。



湖の微かな流れの向こう側へと集中して見ていると、小さな町が見えて来たのだ。



「僕が通ってた幼稚園がある!」



僕は湖面を指さしてそう言った。



「あぁ。小学校も中学校も、病院もある。俺の持ち主や、ルキがいた町だ」



本の言葉を聞きながら僕は自分が通っていた学校を探して行った。



見覚えのある公園やマンションが湖の中に見える。



そうこうしている間に、湖の周りにはいろんな物たちが寄ってきていた。



みんな熱心に湖面の中にある街を見ている。



「みんな何を見てるんだ?」



「自分の持ち主を見てるんだよ。自分がいなくなった後も幸せでいるのかどうか、心配なんだ」



「こんなに小さく見える町で、自分の持ち主を探す事なんてできるのか?」



「もちろん。自分の見たい物だけズームアップで見る事ができるからな」



本はそう言うと湖面に軽く触れた。



それだけで見えていた映像が拡大され、道を歩く人々の顔までしっかりと見えるようになった。



「俺も、ミサの事が気になってここでずっと見てたんだ。そして、ルキの事を知った」



「そうだったのか……」



疑問に感じていたことの謎は解けた。



だけど、個々のわだかまりはまだ解けてはいなかった。



「……もしかして、カエルもこの湖から僕の事をみてたのかなぁ」



僕はひとり言のように、そう言ったのだった。



本と2人で家に戻ると、玄関先に青色の傘が立っていた。



「何か用事?」



後ろからそう声をかけると傘はくるりと振り向いて「雨の形をしたキラキラ光る物を探しているの」と、言った。



またか。



そう思って心の中でため息を吐き出す。



「悪いけど、そんなものはこの家にはないよ。勘違いじゃないかな?」



「そうなのかしら? あたし、確かに見たと思うんだけど……」



「それなら、その雨の形をしたキラキラしたものがあれば、君のために取って置いてあげるよ。それでいい?」



そう聞くと、傘はパッと晴れやかな笑顔を浮かべた。

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