第50話

明らかに挙動不審だ。



だけど僕はこの本がほしくても手に入れる事ができなかったのだ。



この本は5年ほど前に発売されたのだけれど、DVD付きで値段が高く、当時の僕のお小遣いで買う事はできなかった。



「どうだ? この男の家に行く気はあるか?」



傘が【お笑い魂】へ向けてそう聞いた。



「それはもちろん! あ、いえ、やっぱりダメ……」



パッと表情が輝いたかと思った瞬間、自分の気持ちを抑制するようにうつむく本。



なんだかさっきから様子が変だ。



「やっと見つけたんだ。しかもDVDまでちゃんとついてる状態だし、僕はぜひとも君を連れて帰りたいんだけど……」



カエルの持って来た種1つでずっと欲しかった本が手に入るなんて、絶好のチャンスだった。



これを逃したら僕は一生【お笑い魂】を読むことができないかもしれない。



「それならぜひ連れて帰って! いや、無理……」



「さっきからハッキリしねぇなお前は! この男についていくのか行かないのか、どっちなんだよ!」



傘の怒鳴り声に本は飛び上がるほど驚き、涙目になっている。



「行きます! ついて行きます! そっちのほうがきっといい事なんです!!」



半分脅しのようになってしまったが、こうして僕は昔から欲しかった本を手に入れることができたのだった。

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