第49話

それなら、ほしい本が必ず手に入るとは限らないようだ。



「で、ルキは何を探しに来たんだ?」



カエルにそう聞かれて、僕は莫大な量の本を見上げた。



「実はお笑いの本を探してたんだけど……この量の中探すのは難しいかなぁ」



「探すのが難しいなら自分から出て来てもらったらいいんだ」



カエルはそう言い、読んでいた本を置いてスクッと立ち上がった。



この二本足で立つ姿も見慣れて来た。



「10年前流行った恋愛小説!」



カエルが店内へ向けてそう言うと、バタバタと物音が聞こえて来て3冊の本が走って来た。



「なになに?」



「呼んだ?」



「うわ、カエルじゃん。俺カエルに読まれるのなんて嫌だよ」



「お前は黙れ」



カエルは最後の本をポンッと叩いて黙らせた。



その本を含めて3冊とも昔人気になった恋愛小説だ。



「そっか。みんな自我があるんだから呼べば来てくれるんだ」



「そう言う事だ。お前たちもういいぞ」



カエルがそう言うと本たちはブツブツと文句を言いながら自分の定位置へと戻って行く。



「やってみろ」



「じゃぁ、【お笑い魂】いたら出て来い!」



僕はカエルと同じように店内へ向けてそう言った。



しかし、どの本もピクリとも動かない。



「置いてないんじゃないか?」



カエルが言う。



「この店に置いてない古い本なんてない! お前の呼び方が悪いんだ!」



カエルの言葉に反応した傘がそう言い、僕たちの横まで移動してきた。



こうして間近で見てみると僕より頭1つ分背が高く、一本足は筋肉がよくついていてアスリートみたいだ。



「【お笑い魂】出て来い!!」



店中が震えるような声が響き渡り、僕とカエルは耳を塞いだ。



本棚で眠っていた本たちが驚いて起きだし、棚から落下する。



本たちを起こすなと言ったのは誰だったのか。



そう思っていると、一番奥の本棚から大慌てて走って来る一冊の本が見えた。



途中でこけそうになりながら傘の元まで走ってくると、シャンッと背筋を伸ばして立った。



その拍子には【お笑い魂】と書いてある。



随分埃がかぶっているけれど、間違いなく僕が探していた本だった。



「お呼びですか!?」



本は緊張した声でそう言うと、傘を見上げた。



「この本であってるか?」



傘にそう聞かれて、僕は何度も頷いた。



さっきの大声がまだ耳の中で反響している。



「おいお前、こいつがお前をほしがってるぞ」



傘が【お笑い魂】へ向けてそう言った。



【お笑い魂】が僕へと視線を移動させてくる。



僕と視線がぶつかった瞬間、【お笑い魂】が息を飲んだのがわかった。



「あ、あなたは……」



「え、なに? 僕に見覚えがあるの?」



「い、いえ。別に……」



【お笑い魂】はサッと視線をそらせてそう言った。

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