第48話
僕と約束を交わしたミミは安心したのか、蛇女の時と同じように消えて行った。
魂が浄化されたのだ。
「ミミはずっと愛菜という子の事が気になっていたんだな」
2人に戻った家の中、カエルが熱いお茶に苦戦しながらそう言った。
「そうだね」
僕はぼんやりとテレビを見ながら返事をした。
「どうした、元気がないな? ミミがいなくなって寂しいのか?」
「まさか。冗談はやめろよ」
僕はしかめっ面をしてそう言った。
「言っておくが、約束は果たせよ?」
カエルがジッと僕を見つめてそう言った。
大きな目で見られると、すべてを見透かされているような気になって居心地が悪い。
「わかってるよ。僕が現実世界に戻れたらミミとの約束は果たすよ」
そう言いながらも、僕は自分が現実世界に戻れないんじゃないかと思い始めていた。
僕の体は今どうなっているのか。
僕の魂はいつまでここにいるのか。
なにもわからないままだ。
「俺はルキを信じるぞ」
「なんだよ、僕って信用ないのか?」
あまりにしつこいカエルに、僕はそう言った。
「ミミを欺いても、俺を欺く事は簡単じゃないぞ。ずっとルキと一緒にいたんだ。ルキが嘘をつくときに鼻の穴が膨らむことくらい、知っている」
カエルはそう言い、ニヤリと笑った。
僕の嘘は最初から見抜かれていたのか。
僕は自分の鼻に触れて、ため息を吐き出したのだった。
翌日、僕は自分からカエルを誘って町へ出てきていた。
カエルに町案内をしてもらっていた時に気になる店を見つけていたのだ。
それは【本の駄菓子屋】の向かい側に建っている【傘の本屋】だった。
ガラス戸を開けて中へ入ってみると、看板の通り店主は傘だった。
最近雨続きだったからか入った瞬間元気な威勢のいい声が聞こえて来た。
「すごい数だな」
天井につきそうなほど高い本棚にビッシリと詰め込まれた本に僕は感動してしまう。
古いインクや紙の匂いが僕は好きだった。
ただ、普通の本屋と違うのは商品に手足が生えていて、自由に動き回っている物がると言う所だった。
本たちは店内を走り回ったり、店主の傘にじゃれ付いたりして遊んでいる。
「本棚はこいつらの寝床なんだ。キチンと収納されている本たちは今眠っているから、起こさないようにしてくれよ」
傘がそう言ったので、僕は本棚をマジマジと見つめた。
そう言えばさっきから誰かの寝息が聞こえてくると思っていたが、これは本の寝息だったようだ。
「ところでさ、どうして本が駄菓子を売って、傘が本を売ってるわけ?」
僕はカエルへ向けて小声でそう質問をした。
「人間が人間を売る事は時々あるらしいが、同じ仲間を売りとばすような事は普通しないだろ?」
カエルは一冊の本を手にとってパラパラとめくりながらそう答えてくれた。
なるほど。
確かに納得できることだった。
「でも、この本たちの魂はまだここで生きてる。それを物々交換するのって大丈夫なの?」
そう聞くと、今度は傘が答えてくれた。
「もちろん、本が行きたいと言った家にしか行かせねぇよ。本と客の気持ちが合致して初めて成立するんだ」
「へぇ」
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