第51話
「俺の家にDVDは置いてないぞ?」
本屋からの帰り道、カエルがそう言った。
僕は手の中の本を見る。
本は大人しく僕にもたれているけれどずっと不安そうな顔を浮かべている。
「DVDはなくても本の中身が読めるから大丈夫だよ」
【お笑い魂】は小学校の頃流行っていた番組で、この本はその中でも人気が高かったネタを収録いているものだった。
DVDはその時の番組がそのまま入っているようだ。
「僕が中学に上がる前に番組は打ち切られちゃったんだけど、すっごく面白かったんだ」
「そなのか。それなら俺もその本を読んでみようかな」
カエルがそう言った時だった。
突然僕の手から本が飛び出し、走り出したのだ。
「おい、ちょっと!」
僕は慌てて本を追いかけた。
本は足が短いので歩幅が小さく、すぐに追いついてしまった。
「いきなりどうしたんだよ」
僕は両手で本を持ってそう言った。
両手に収まっている本はまるで赤ちゃんのように見えて笑ってしまう。
「ぼ、僕はそんなに面白くないよ。だからやっぱり、本屋に戻るよ」
「今更何言ってるのさ。種はもう傘にあげちゃったよ」
「で、でも! 僕は本当に面白くなくて!」
「お前珍しいな。この町の住人なのに嘘をつくのか」
カエルが本の言葉を遮るようにしてそう言った。
本が途端に静かになる。
「その嘘もへたくそすぎてバレバレだけどね」
僕がそう言うと、手の中の本は悲しそうな表情をこちらへ向けて来た。
「本屋でルキを見た時から妙だと思っていたんだが、お前はルキを知っているのか?」
「そ、そんな! 僕が彼の事を知っているなんて、そんなこと……!」
嘘をつくのが苦手だからか、最後まで言うのをやめてしまった。
どうせすぐに見破られてしまうからだ。
「だけど僕はこの本を手に入れることはできなかったんだ。きっと君の思い違いだよ」
僕はそう言い、ニッコリとほほ笑んだのだった。
本を持って家に戻って来ると、青い色をした一本足の傘が家の前にいた。
本屋の傘とは違い、スラリとした白くて綺麗な足をした傘だ。
「誰だ?」
カエルが僕の前へ出て傘へ声をかけた。
傘はその声にビクッと肩を震わせてから振り向いた。
見るとその傘は赤い口紅を付けていて、まつ毛も長い。
女性だということがすぐにわかった。
「あら、はじめまして」
青い傘は丁寧に頭を下げて挨拶をした。
「ここは俺の家だ。なにか用事か?」
「あら、そうでしたの。この家にキラキラ光っている雨があった気がして、来て見たんだけど、見失ってしまったの」
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