第37話

ミミを家から追い出した後も、気分は最悪だった。



この町に来てから一ミリだって思い出す事がなかったことを、ミミの出現によって思い出されていた。



心は重たく沈み、何をするのもおっくうに感じられる。



そんな気持ちに寄り添うように、外は雨が降りはじめていた。



サラサラと砂が落ちて来るような音から、徐々に激しい音へと変わっていく。



窓の外から庭を確認すると、そこには一本足の日本傘がいた。



傘は庭の中を飛び跳ねて喜んでいるように見える。



「あいつは悪さはしない。雨になると喜んであちこちから出て来るんだ」



僕の肩に乗ったカエルがそう言った。



「傘は雨が好きなんだな」



「そうだな。ちなみに、俺も雨は好きだ」



どうりで、カエルはさっきから僕の肩の上で落ち着きなく動き回っていると思った。



外へ出て飛び跳ねたいのだろう。



「行ってくればいいよ」



「そうか? 家に1人でいて寂しくないか?」



「僕はもうそんなに子供じゃない」



そう言うと、カエルが動きを止めた。



ガラスに映ったカエルを見ると、大きな目をギョロリと動かした。



「そうか。俺が捨てられてからも成長していたんだな」



カエルは懐かしむような口調でそう言うと、僕の肩から飛び降りて外へと飛び跳ねて行ったのだった。



その夜。



僕はまた夢を見ていた。



祖父の家にいた時のような懐かしい夢じゃない。



それはごく最近の夢だった。



僕の前には大好きな子がいた。



色白で目が大きくて、まるでお人形さんのような女の子。



僕が校舎裏に呼び出した時、彼女は戸惑った表情を浮かべていたけれど、ちゃんと来てくれた。



放課後の校舎裏には僕と彼女……愛菜、しかいない。



愛菜は何かを感じ取っているのか、さっきから俯いてばかりで僕の顔を見てくれなかった。



「愛菜、こっちを向いて」



僕は自信満々でそう言った。



まだ何も伝えていないのに、その答えはもう知っていて、だからこその余裕があった。



もちろん緊張していたし顔は真っ赤になっていたと思う。



だけどそれ以上に、伝えたい気持ちが強かった。



愛菜がゆっくりと顔を上げて僕を見た。



視線がぶつかるともう離れない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る