第36話

久しぶりに聞いたその名前に、心臓が大きく跳ねる。



「嘘だ」



僕は自分でも気が付かない内にそう言っていた。



「本当です!」



ミミがむきになって言った。



「いいや嘘だ。ミミは自分の持ち主の事を『自分の意見が言えない子』だって言っていた。だから捨てられたんだって。でも愛菜は違う。



自分の意見をちゃんと言える子だ」



僕が早口でそう言うと、ミミは耳を垂れて悲しそうな視線を僕へ向けた。



少しだけ胸が痛む。



だけど、僕に嘘をついているのは確かだ。



愛菜は意見が言えない子なんかじゃない。



「ルキ。この町の生き物は嘘をつかない」



「だけどミミは嘘をついてる」



カエルの言葉を強く否定した。



体中が熱くて、ミミがここにいることが不愉快になっていく。



愛菜。



それはできればもう二度と聞きたくない名前だった。



忘れてしまいたい名前。



憎んでいる名前。



「悪いけど、出て行ってくれないか」



僕はミミを睨み付けてそう言ったのだった。

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