第38話

両者とも少しも視線をずらさず見つめ合う。



「僕は愛菜の事が好きだ」



結果がわかっている告白なのに、その言葉を伝える瞬間体中にどっと汗がふき出していた。



『好き』という言葉を使うのはこれほどまで勇気がいることなのだと、僕は中学入学とほぼ同時に知ったのだ。



愛菜は僕の言葉を聞くと見る見る内に真っ赤になっていった。



リンゴのように真っ赤になった愛菜はとても可愛くて、抱きしめたいという衝動に駆られる。



だけど僕はそれを我慢した。



返事を聞く前に相手を抱きしめるなんて、ルール違反だ。



手を繋ぐのはいいけれど、抱きしめるのは恋人同士になってから。



そんな風に自分で一線を引いていた。



真っ赤な顔をした愛菜は今にも泣き出してしまいそうなくらい、目が潤んでいた。



僕はそんな愛菜を見て胸が締め付けられた。



告白をされて真っ赤になって泣いてしまうなんて、なんて可愛いんだろうと思った。



愛菜の事をずっとずっと大切にしよう。



そう思った。



けれど……。



「少し、考えさせてくれる?」



愛菜はそう言い、逃げるようにその場から立ち去って行ったのだ。



てっきりその場でOKしてもらえると思っていた僕は慌てて愛菜を呼び止めようとした。



けれどその手は届かず、愛菜は僕の前からいなくなってしまったんだ……。

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