第12話

人の影はあっという間に僕との距離を縮め、気が付けば目の前に女性が立っていた。



白い着物を着た色白の華奢な女性。



腰ほどまである長い黒髪が風になびいているのに、その髪は枝のどこにも絡んではいなかった。



丹精な顔立ちをしたその女性に僕は呼吸をすることも忘れてしまっていた。



「こんばんは。こんな場所で人と出会うなんて、とっても珍しいわね」



女性は鈴の音色のような声でそう話しかけて来た。



僕はハッと我に返り「こ、こんばんは!」と、返事をする。



恐怖を吹き飛ばすようにできるだけ大きな声を出した。



心臓はドクドクと高鳴っていて、さっきまでとは違う汗をかき始める。



しかし女性がニッコリとほほ笑んだ瞬間、不思議と恐怖心はあっという間に吹き飛んでしまっていた。



そのくらい、目の前にいる女性の笑顔が魅力的だったのだ。



「君の名前は?」



「ルキ。井上ルキです」



「始めましてルキ。あたしはマヤ」



そう言い、手を差し出して来るマヤ。



その手を握ると細いのにとても柔らかくてなめらかな感触がした。



そして、信じられないくらいに冷たかった。



「ルキは、どうしてこんな場所にいるの?」



「僕は、この町の出口を探してるんです」



「出口?」



マヤは黒目がちな目を大きく見開いてそう聞いて来た。



「そうです。こんな早大な夢を見たことは初めてで、なかなか夢から覚めないようなので、自分から出口を探す事にしたんです」



緊張から説明もたどたどしくなってしまったが、マヤさんは優しくほほ笑んでくれた。



「そうなの。それじゃぁ私も一緒に出口を探していいかしら?」



「そ、そんな。迷惑になってしまいますよ」



僕は慌ててそう言った。



自分の夢の出演者に迷惑もなにもないと思ったが、マヤが美しすぎて恐縮してしまう。



マヤはそんな僕を見て楽しそうに笑った。



「大丈夫よ。私はいくらでも時間があるんだから。そうだ、よければ私の家に来ない? 夢から覚める前に少し休憩したらどう?」



そう言い、マヤは僕の手を掴んで歩き出したのだった。

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