第13話

「不思議なんです。夢なのに歩いている時の感覚とか疲れとかが、とてもリアルなんです」



僕はマヤと共に森の中を歩きながら、ここへ来たいきさつを説明していた。



「私も、時々そんな事があるわ。夢だとわかっているのにとてもリアルで、時にとても怖くて時にとても悲しくなる。もちろん、夢の内容によってはその逆でとっても楽しくなって、このまま目が覚めなければいいのにって思う事もあるわ」



「マヤさんにもあるんですね?」



僕は、これは僕1人が特別に経験していることではないとわかり、ホッとしてそう聞いた。



「えぇ。そんな時は夢から覚めた時に冷たい川の水で顔を洗うの。そうすれば夢と


現実の堺がしっかりしてくるから」



「そうなんですか。じゃぁ、僕も目が覚めた時にやってみます」



そう言ってから、目が覚めた時にマヤさんの事を覚えているかどうか不安になった。



できれば覚えていたいな。



怪物やカエルのことは忘れてしまってもいいから。



「ここが私の家」



そう言い、マヤさんは何もない場所で突然立ち止まった。



そこは森の真ん中で大きな岩の洞窟があるくらいだった。



「どこに家がるんですか?」



僕はそう聞いて周囲をキョロキョロと見回した。



やはり家はどこにも見当たらない。



「ここが私の家よ」



マヤはそう言うと、着物が汚れてしまう事も気にせず洞窟の中へと入って行ったのだ。



「マヤさん、そんなところに入るなんて危ないですよ!?」



真っ暗な洞窟の中へ向かって声をかける。



一歩足を踏み入れるだけでもう何も見えないくらいの暗闇だ。



「大丈夫よ。ほら、明かりもあるの」



そんな声が聞こえて来た時、ロウソクの明かりが洞窟内を照らし出した。



マヤの姿がオレンジ色に浮かび上がる。



洞窟の中には割れた食器やロウソクの束が乱雑に置かれている。



僕は恐る恐る洞窟の中へと足を踏み入れた。



途端にヒヤリとした冷たい空気が体に絡み付いて来て身震いをした。



「この中、すごく寒いですね……」



そう言う自分の息が白くなって消えて行く。



そういえば、マヤの手もこの洞窟の中のように冷たかったな。



まるでここだけ別世界みたいだ。



手を伸ばせばすぐそばに現実世界があるのに、取り残されている。



「この寒さで目が覚めるかもしれないわね?」



「そうなら、いいですね」



言いながら体がどんどん重たくなってくるのを感じた。

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