第11話
カエルの家に来て数時間が経過していた。
カエルは今テレビのボクシング中継に夢中になっている。
不思議と、そのテレビが映し出すものはすべて古いものばかりだった。
画面上で試合をしているのはとっくの前に引退した選手たちだ。
カエルにその疑問を投げかけると「このテレビは自分が活躍していた頃の記憶を映し出しているからだ。現代の模様を流しているわけじゃない」と、言われた。
僕はまた半分頷き、そして半分首を傾げた。
とにかく、カエルが昔のボクシング中継に夢中になっている間、僕はこっそり家を出た。
懐かしい祖父の家を背中にして歩き出す。
この町へ来た時よりも更に日は落ちていて、もうすぐ真っ暗になってしまうだろう。
暗い夢は好きじゃなかった。
起きた時にまでその暗さを引きずってしまうからだ。
「どうやったら目が覚めるんだろう」
僕は1人呟きながら町の中を進んでいく。
家の明かりの向こうに人の影が動き回っている。
僕も早く家に戻ろう。
こんなに長く鮮明な夢を見たのは初めてだから、起きた時にみんなに自慢できるかもしれない。
そんな事を考えながら歩いていると、山の麓までやってきていた。
不意に不安が胸をよぎった。
色々なもので継ぎ接ぎになった化け物の姿を思い出す。
「カエルは舗装された道を歩けば大丈夫だって言ってたな」
僕はコンクリートの地面をしっかりと踏みしめながら山を登りはじめた。
舗装された山道にはちゃんと街灯もついていて、足元は明るい。
きっと大丈夫だ。
この山を登り終える頃には目も覚めているだろう。
そう思って軽快に歩いていく。
森の中から時折聞こえて来る唸り声や、鳥の声を聞いては足を止めその方向を確認した。
なにもない。
大丈夫大丈夫。
それはもう呪文のように頭の中で何度も何度も繰り返していた。
本当は怖くて仕方がなくて、全身から汗が噴き出している状態だった。
こんなに恐ろしい夢を見たのも生まれて初めてだ。
起きた時にみんなにおどろおどろしく話すことができるぞ。
だからもう少し頑張って……。
そう考えた時、森の中に人影が見えた気がして僕は震えあがった。
暗闇よりも更に濃い人の影は、ガサガサと音を立てながらこちらへ近づいているのだ。
まさか、怪物!?
その場に立ちすくみ目を凝らす。
すぐにでも逃げ出せるように体勢を低くして待った。
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