第9話

家の中は当時の形をそのまま残していて、僕は思わずため息を吐き出した。



広い土間に囲炉裏がある。



その奥は畳の部屋になっていてブラウン管の大きなテレビがドスンッと鎮座している。



「すごい、なにもかも当時のままだ」



僕はそう呟き、家の奥へと足を進めた。



奥の六畳間には仏壇が置かれていて、その壁には亡くなった人の写真が飾られている。



仏間の隣は縁側になっていて、祖父と祖母が仲良くお茶を飲んでいる場面を思い出して胸の奥が熱くなった。



「何を泣きそうな顔をしている?」



後ろからついて来たカエルにそう言われて、僕は慌てて目元をぬぐった。



乾いた感触がしただけだった。



「別に泣いてなんかないじゃないか」



「泣いてるさ」



カエルは大きな目を瞬きして僕を見上げている。



「またそんな嘘ついて」



「この町に暮らしている物は嘘をつかないと言っただろう」



「はいはい」



僕は適当に返事をしてリビングへと移動した。



ブラウン管テレビの前に立ち、マジマジとそれを見つめる。



「このテレビ、まだ映るの?」



そう聞くとカエルは「当然だ」と、つまみをひねってテレビの電源を入れて見せた。



テレビはブンッと小さく音を立てて明かりを照らし出した。



身を離して見ているとじわじわと画面上に映像が浮かんでくるのがわかった。



「まるで心霊テレビだ」



「何言ってる。昔のテレビはこんなもんだ」



「そうだっけ?」



僕は首を傾げた。



そもそも祖父の家にあったテレビはこんなに古いものだっただろうかと、思い悩む。



家の中にある他の物はすべて当時と変わらない様子だけれど、このテレビだけは違う気がする。



「このテレビがそんなに珍しいか?」



僕があまりにも真剣にテレビを見ているので、カエルがそんな事を聞いて来た。



「いや、祖父の家にあったテレビと違うなぁと思って」



そう言うと、カエルは大きな目を更に見開いて僕を見上げた。



なにか失言してしまっただろうかと思い、僕は一歩後退した。



「その通り。このテレビはこの町へ来てから物々交換で持ってきたものだ」



「物々交換? テレビと引き換えに何かをあげたってこと?」



「そうだ。この町へ来たとき、この家にテレビはなかった。だから物々交換で貰って来たんだ」



カエルの言葉に僕は頷き半分、首を傾げた。



祖父の家にあったテレビはどうしたんだっけと、記憶をたどる。



すると不意に思い出した。



「そうだった。祖父と祖母が引っ越す前に大きな地震が来てテレビは壊れちゃったんだ」



鳥取に震度6弱の大地震が来たのをきっかけに祖父と祖母は引っ越しを決意した。

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