第5話

物でできた怪物は両手を広げ襲い掛かってきそうな体勢を取っている。



そんな状態なのに僕は逃げる事もできずにその場に立ち尽くしていた。



足が少しも動かない。



恐怖で喉に声が張り付いていて少しも音が出てこない。



雑誌でできた手が伸びて来る。



「ナ……ナカマ……」



砂嵐の音に混ざってそんな声が聞こえて来る。



高く、女性のアナウンサーのような声だ。



「僕は仲間なんかじゃない‼」



ようやく悲鳴に近い声が出た。



同時に弾かれたように走り出していた。



積もった腐葉土をまき散らし、木の根に躓きながら転がるようにして走る。



後ろから怪物が近づいてくる気配がして止まることができなかった。



一気に駆け下りて行くと前方に舗装された道が見えた。



一瞬気が緩んだ次の瞬間、僕は木の根に足をとられていた。



走ってきた勢いのまま体が空中に投げ出された。



必死で手足をばたつかせても落下に逆らう事はできなかった。



僕は木々に散々体を打ち付けながら舗装された道に出た。



「いってぇ……」



顔をしてかめて上半身を起こすとメマイを感じた。



「何をしている」



その声にハッとして振り向くとカエルがピョンピョンと飛んでくるのが見えた。



「こんな森の中1人で下山するなんて無茶な事だぞ」



カエルのハスキー声に怒りが帯びているのがわかった。



僕がカエルの忠告も聞かずに勝手な事をしたことを怒っているのだろう。



だけど今は謝っている暇もカエルの気持ちを考えている暇もなかった。



森の中からあの化け物が追いかけてきているのだ。



振り向くと大きな家電の両足がバキバキと木々をへし折って向かってくるのが見えた。



「た、大変だ! 早く逃げなきゃ‼」



そう言ってみるものの、さっき落下してここまで落ちて来たばかりの体は思うように動かない。



立ち上がろうとしてそのままバランスを崩してこけてしまった。



「舗装された道までは出てこない」



化け物を確認したカエルが落ち着いた口調でそう言った。



「そ、そうなのか?」



「あぁ。見て見ろ。森の外にいる俺たちの姿を確認することができずにいるだろ」



カエルの言う通り、化け物は道路の手前で立ちどまり辺りを見回している。



僕を探しているのだ。

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