第4話
丘から見下ろした町は小さかったが、それでもすぐにたどり着くと思っていた。
そもそもこれは僕の夢なのだから、突然場面が切り替わって見慣れた自分の町に戻ったりするかもしれないと期待していた。
しかし、山を下っても下っても出口は見えず太陽は徐々に傾き始めていた。
肌に感じる夕方の肌寒さはとてもリアルで、僕は何度も身震いをした。
「こんなにリアルな夢を見たのは初めてだ」
僕は1人呟いた。
歩くたびに足元の草木を踏みつけ、パキパキと音が鳴る。
靴の裏から伝わって来るその感触もとてもリアルで草木の下の柔らかな土まで感じ取る事ができた。
木々の隙間から見えていた真っ青な空は今はオレンジ色に変わりはじめていた。
「まずいな……」
さすがに焦りを感じ始めていた。
このまま山の中で夜になってしまえば、今日中に下山する事もできなくなるだろう。
僕は歩調を早めて歩き出した。
しかし四方八方に伸びた木の枝が行く手を阻み、なかなか前に進むことができない。
汗が額を流れて行った、その時だった。
どこからか低い唸り声のようなものが聞こえて来て僕は足を止めた。
周囲を見回すが、なにもいない。
気のせいかと思い足を前に出すと、また同じような唸り声が聞こえて来て僕は息を飲んだ。
やっぱりなにかいる‼
呼吸を止めてゆっくりと森の中を確認していく。
木の陰、背の高い草の後ろ、こうして見ると死角になる部分が沢山あり、何が潜んでいるかわからない。
ゾクゾクとした冷たい恐怖が足先から体中へとめぐって行くのがわかり、身震いをした。
なんだこれ、夢のくせにやけにリアルな怖さだな。
「夢なら早く覚めろ、早く覚めろ、早く覚めろ」
僕は胸の前で拳を握りしめ、まるで祈るような格好になってそう呟いた。
目が覚めればベッドの上にいるはずだ。
怖い夢だったなぁと汗を拭いて1日が始まる。
きっとそうだ。
そうに決まっている。
僕が暮らす街には山はあるけれど、そこで遊んだ事なんて今まで1度もない。
そんな僕が自分から山に入るなんて事、絶対にあり得ないんだ。
だからこれは夢で間違いない。
たのむから早く目が覚めてくれ!
そんな願いが通じる事もなく、大きな影が僕に覆いかぶさってくるのが見えた。
ハッと息を飲みこんで勢いよく振り返ると、そこには見たこともない化け物が立っていた。
薄汚れた毛布に冷蔵庫や洗濯機がくっついて両足のようなものになり、壊れた本棚や雑誌が両手となって伸びている。
その顔はブラウン管テレビでできていて、砂嵐のザーッと言う音が聞こえてきていた。
僕は目を見開き、同時に口も開きその得体の知れないものを見上げた。
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