第49話 元宇宙人探偵の疑惑
アヤの通う桜マラカリア大学は主に児童福祉に関する学科と芸術分野とがあるが、いずれにせよ女子が多い。背の高い俺はどうしても目立つ。
「来ませんね? 河本様。どうされたんでしょう?」
「いいかげんなヤツだ。食うだけ食って帰るか」
「チケットを買ってあります。どうぞ」
河本駿介との約束の時間からもう20分も経っている。首相の息子のくせに約束をボイコットするとは、どんな教育を受けてきたのか。
裏にいる俺は憤っているが、表の思考はたいして気にせず、たこ焼き、焼きそば、おにぎり、唐揚げ、と片っ端から食べていく。
「もう1時間も遅れられているのに、連絡もないというのもなんだか不気味ですね。何かあったんでしょうか」
アヤがスマホを確認する。
「えっ……淀臣さん! これ見てください!」
アヤのスマホのニュースアプリには、様々な見出しが躍っている。
『スクープ! あの嶌田工芸の家元、嶌田良吉がひとり娘に政略結婚を強要!』
『総理大臣の息子で俳優の河本駿介と嶌田工芸の娘の婚約は仕組まれたものだった!』
『あわれ! 婚約者がいるのに政略結婚をさせられる嶌田工芸のご令嬢!』
『嶌田良吉の娘の知人が暴露! 「綾は結婚を嫌がっている」嶌田綾の知人T氏が婚約報道の裏側を語る!』
『総理も関与か?! 嶌田家と河本家の闇! 令和の時代に政略結婚?!』
アヤの婚約報道がフェイクニュースだという記事はひとつもなく、すべてが嶌田良吉が企てた政略結婚に関する記事ばかりだ。
これは……なんでこんな記事が大量に?!
「こんな内容をどうして……あ! これ、私の知人のT氏って、淀臣さんですよね? 天外淀臣のT!」
記事の内容を読む。表の思考は漢字がほとんど読めないからチンプンカンプンだが、たしかに俺っぽい。嶌田良吉がアヤとホストの婚約破棄を依頼した探偵が俺以外にいるのでもなければ、この私立探偵T氏とは俺のことだろう。
「どうして取材なんて受けたんですか? 私の父だけでなく、こんな首相まで批判するような記事にされては淀臣さんの探偵活動にも支障が出るかもしれないのに。まさか、もしかして、私のためですか? 首相を敵に回してまでも私を……」
またアヤは何か勘違いを始めているようだが、俺は胸がざわついてそれどころじゃない。
俺は取材など受けてはいない。だが、俺はただひとりにだけは嶌田良吉から依頼を受けたことやアヤに婚約者がいること、嶌田良吉が河本駿介と結婚させようとしていることなどを包み隠さず話してきた。
まさか、嘉純さんが……?
あるわけない。あの嘉純さんが……でも、こんな詳細な事情を知り得る人物は、嘉純さんしか考えられない。
昨日、表の思考は嘉純さんに問われるまま答えていた。
この記事に書かれていることはすべて、俺がこれまでに嘉純さんに話してきたことばかりだ。
まさか……まさか、嘉純さんが俺を売った……?
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