第9話 元宇宙人探偵の宣伝活動

 翌日は早速、嘉純さんからいただいたスマホで様々な探偵事務所の看板を検索して、看板の製作に尽力する。


 目を閉じてON/OFFスイッチを押し、ONと光ったのを確認して今しがた案が固まった看板を精巧に緻密に練り上げる。

 忘れずに携帯番号も入れておかないとな。

 頭の中で看板ができたら、手を使って貼り出すのは面倒なので直接ベランダの柵に縛り付けて固定する所までしっかりとイメージする。


 よし、これでいい! 実行!


 ――できてるかな?! 俺の名探偵看板!


 タタっとベランダへ小走り、柵をのぞき込む。


 ――できてる! 外からどう見えるのか確認しときたいな。

 体はベランダに置いといて、意識だけ飛ばそう。


 え?

 と思っていると、体には俺の思考だけになり、普段表に出ている方の思考は見えねーだろくらい遠くに離れてから徐々に近付いてくる。


 体を離れてしまえばこの地の人間には見えないから問題はないが、絵面だけ見ると元宇宙人ってよりもエスパーだな。宙に浮いている。


「いい! 赤と黒のコントラストが効いてて遠くからでも見えやすい! こりゃーマネーがガッポガッポだぜ!」


 お前の大好きな名探偵が絶対言わないやつな。地上13階にある看板にいかほどの宣伝効果があるのだろうか。


 いやー、それより、表に出るのなんて宇宙船でカラス踏みつけようとした時以来だ!

 表に出ると考えることに集中できないから好きじゃねーんだけど、たまにはいいもんだな!

 あー、ここに嘉純さんがいれば思いっきり触るのに!


 そうだ! このすきに部屋の中に入っとこう。ベランダに置いといたはずの体が勝手に移動してりゃあ、さすがに俺の存在を思い出すだろう。

 表の思考が看板前でワーキャー言ってる間に、優雅にコーヒーを入れカップを手に持つ。


「よし! バッチリ宣伝もしといた! 体に戻るか」


 さあ、来い! 俺の存在を思い出せ、俺!


 ――あー、コーヒーが美味い!

 今日から早速忙しくなるぞ、これは! あ、嘉純さんに看板の写メ撮って送れば良かった!

 あとでまた意識飛ばして撮ってこよ。スイッチOFF、と。


 ぜんっぜん思い出しやがらねえ! なんで疑問にも思わないんだよ!

 いや、そもそも意識だけとーばそ、とか考えてる時点で俺って変だなってなぜ違和感を覚えない?!


 今は憧れの探偵への第一歩を踏み出してテンション上がってっから気付かねえだけだよな?! だと言って?! 俺のこと思い出す気あるよね?! ねえ、俺よ!


 ――さーてと、どのアニメ観ようかな。今の気分は小学生の姿じゃなく、今の俺に近い高校生の事件簿の方かな。


 たしかに、戸籍上は36歳とは言え、見た目は高校生くらいにしか見えない。宇宙人スイッチをOFFにした直後で背が縮んでいるからなおさらだ。

 見た目は金髪碧眼の美少年、戸籍は日本人のおっさん。どんな名探偵だ。


 ブルーレイを再生しようとテレビを付けた。


 ――おや、あの娘じゃないか。誕生日パーティ?


 テレビでは正午前のニュースをやっている。

 あの誘拐されかけていた「お嬢様」が昨日二十歳になり、誕生日パーティにそうそうたる面々が集まったという平和なニュースだ。

 ほお、首相まで祝いに訪れるとは、あのお嬢様相当だな。


 コメンテーターたちが祝いの言葉を述べる。それを受ける司会者の後ろの大きな画面には、お嬢様を真ん中に50代くらいだろうか、両親らしき男女がにこやかに笑っている様子が大きく映されている。


 誕生日パーティの後で祖母の家に行こうとして二度も誘拐されかけたと言う訳か。お嬢様は大変だな。


 ピンポーンと、広い部屋にマンションロビーのオートロックからの来客を知らせる音が響く。

「はい」

「こちらは天外探偵事務所でしょうか」

「はい、そうです」

「依頼したいことがありまして」

「客ですね。お入りください」


 ――宣伝の効果が早速あったようだな。この辺り10キロ四方程度にしか届いてなかっただろうに、探偵を探している人がちょうどいたってことか。幸先いいな!

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