11-14 新しい生活

 二年後 那楽華の湯


 三途砂の大型テレビの前に、梢女と里見がいた。


「里見さん、お久しぶり。お呼びしてすみませんね」


「また新しい依頼ですか?」


「ええ、でもその前に弟さんの新婚生活ご覧になってはいかがです?」


「もう何度か見ましたけどね」


 テレビには、義弘が住むリビングダイニングが写っていた。


「私はてっきり、あの加藤という子と一緒になると思ってましたよ」


 梢女が里見を見た。


「私も義君にぴったりだと思っていたのですけどね」


 その時、テレビから義弘の声が聞こえてきた。


「ただいまあ」


「太田さん、帰ってきましたね」


 二人はテレビに見入った。


「優君のオムツ買ってきてくれた?」


 キッチンに立つ奥さんの声も聞こえた。


「オムツ?知らないよ」


 カバンをテーブルに置く義弘の横にエプロン姿の奥さんが現れた。


 梢女のクスッと笑う声が、里見に聞こえた。


 義弘の奥さんはどことなく不満そうにしていた。


「ライン送ったでしょう?見なかったの?」


「いや……」


「もうー、オムツ買ってきてって打ったのに。ほら、今すぐ買って来て。ドラッグ桃山。今日までだから」


 義弘は疲れた顔をしつつも、ドラッグ桃山に向かおうとした。


「ポイントカード持った?あと、ついでに卵買ってきてよ」


 奥さんの厳しい言葉に促されて、義弘は家を出た。




 梢女が笑いながら言った。


「誰かさんにそっくりじゃない?……太田さんの好み完全に変わっちゃったよね。と言うか、変えられたのかな?」


「やめてくださいよ。私はあんなにおっかなくありませんよ」


「そうかしら。そう言えば一つ、里見さんに尋ねたいことがあったのですけど」


「何ですか?」


「あの時玄関で、太田さんのほっぺをギュッとした時のことです、『それ以上言ったら、私、義君のこと』その後なんて言おうとしてたんですか?」


 里見は不機嫌な顔になり、席を立とうとした。


「そんなこと聞くなら、私帰りますよ」


 梢女は慌てて里見を引き留めたが、里見は笑顔で梢女を見た。


「ハハハ……嘘ですよ。怒ってなんかいませんよ」


「鬼を騙すなんて、ひどい人ですね」


「お互い様でしょう。それより、そろそろ次の方のこと、教えてください」


 テレビには、オムツを替える義弘が写っていた。

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